第三話 楽しさと面白さ

楽しい事と面白い事とは別物と考えます。俗に言う良い事とは、楽しい事でもありますが、面白さには、その楽しさだけでは無く、チャレンジがあり、発見があり、進化がある。それらを求めると、当然ながら、辛さもあるわけで、その辛ささえも、面白さ故に乗り越えてしまう。このふたつの定義は、ちょうど、前者がレジャーで、後者は趣味と言えると思います。

さて、ヨットの楽しさとは、良い天候に恵まれ、良い仲間に恵まれ、快適な時間を、快適なセーリングやキャビンで過ごす時、我々は楽しさを感じると思います。ある種の幸福感さえ感じます。だから、ヨットを始めましょうと言います。楽しいですよと言います。そんな言葉は、人々に簡単にそういう場面を想像させる事ができます。何故なら、みんな、過去に、どこかで同じ種類の楽しさを味わった経験がありますから、想像するに難しい事はありません。

しかしながら、水を差すようですが、一年間を通して、そんな日はそう多くは無い事に気付きます。風が弱すぎたり、強すぎたり、寒かったり、暑かったり、雨かもしれないし、みんなが集まれないかもしれないし・・・・・。という事は、楽しさだけではヨットは長続きしないかもしれません。温泉は好きかもしれませんが、毎日行こうとは思わないのと同じでしょう。年間のたまにで良い事になります。
それはそれでひとつの使い方ですから、個人の自由であります。しかし、もし、もっと何かを、もっと乗りたい、もっとを求めるには、楽しさから面白さへの移行が必要になると思いますね。

一旦面白さを感じたら、いろんな条件の変化が前程は気にならなくなります。好条件のみが良いとは思わなくなります。でも、どうしたら面白さを得る事ができるのか?

旅の面白さは既に皆さんご存知ですから、それをヨットでやろうという事になります。旅が長くなればなる程に、道中には辛い事もある。でも、旅の面白さがあるからこそ、続ける事ができます。重要な事は、旅にどれだけ面白さを感じる事ができるか、その感じる強さ次第ですね。これは既に、それぞれの方々が過去の経験においてお持ちのはずですから、それ次第という事になります。

セーリングの面白さは、未体験ゾーンにありますから、面白いですよと言っても想像がつかないと思います。やってみるしかないわけですが、それは行為にのみ捉われるのでは無く、走って、操船している最中に、外の世界と同じくらい、自分の中、自分の感じる部分に集中してみる事ではないかと思います。操作して、変化を観察して、その変化から来る自分の感じに注意してみることかと思います。そうしますと、いろんな変化に敏感に感じる事になり、いろんな感じがある事に気付きます。

船体がヒールする感じ、操作をしてバランスを取る感じ、加速する時の感じ、舵を伝わる感じ、いろんな感じを得て、そこに何か、これまで以上の何かを感じたら、きっとそこに面白さを感じるかと思います。それをさらに得る為に、知識を得て、それを技術に反映させ、そうすると同時に自分の意識が自動的に深く入ってきていますから、感じる事も違ってきます。おまけに、知識を得たので、頭脳ゲームも出てきます。

つまり、楽しさは自分の中に既に楽しさのパターンがあり、それに合致した時に楽しさを感じ、面白さとは、未知なる物におおいなる好奇心をそそられる事かと思います。同じヨットに二人の人が乗り、ひとりは楽しさを感じ、もう一人は面白さを感じる事がある。それは同じセーリングの中に、何を見出しているかの違いではないかと思います。

ただ、真っ直ぐ走っているだけでも、そこに微妙な変化を感じたり、知的アプローチを巡らしていたり、環境は同じでも見ている部分、感じている部分が違います。そこに一歩踏み出す事は、面白さの発見になるかと思います。

面白さを得てきますと、いろんな部分にも工夫が見られるようになる。メインセールをあげるだけでも、いかにスムースに、いかに楽に、いかに短時間で、いかなるタイミングで、そういう事を一瞬一瞬に考えるようになる。そういう事が全体に、自然に無理なく行き渡る。そうしますと、全体に滑らかになるし、無駄が無くなるし、上手くなる。

上手くなれば、より感じる余裕が出てきて、いろんな部分に、いろんな変化を感じる事になります。そこに面白さを得ていくことになると思います。つまり、ちょっとした短時間のセーリングにおいても、深く入る事で、面白さを感じれば、しょっちゅう感じたくなる。そんな夢中になれる時間を、日常の中に持つ事に幸福感を得たりもします。それは、楽しいとは全く別の感覚だと思いますね。だからこそ、10年以上も続ける事ができます。端から見れば同じような事をしているようで、本人の中では、毎日違う事になります。

つまり、諸行無常と言われますが、その変化に気付くか気付か無いか?どれだけ気付けるか?より多く気付く人にとっては、それが面白さになる。気付かないから、楽しさだけを追うことになる。
最初は楽しさから入って、やがては面白さに変わっていく。それが長く続ける秘訣ではないかと思います。それを旅にするか、セーリングにするか?旅は既に多くの人がやってますので、当社としては、セーリングを強調している次第です。

楽しさとは、自分の持つ楽しさのパターンに合致する事が必要で、面白さとは、変化に気付く事。その変化を追い求める事。ですから、チャレンジなんですね。繊細なチャレンジ、大胆なチャレンジ、何でも良いわけで、チャレンジ精神は面白さから生まれる。面白さはチャレンジ精神を生み出す。

楽しさだけを求めると、良いか悪いかに分類してしまいます。しかし、面白さを得ますと、その分類がどんどん少なくなる。その分、寛容な精神になる。何故なら、全ては次の変化への要素である事が解るから。その変化が面白さだから。だから、楽に遊ぶ事ができる。気楽はとっても大事な事かと思いますね。

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