第十四話 時間

今まで書いてきた事は面倒くさい事?と感じられるかもしれません。その面倒くさい事を何故するのか?もし、誰かのヨットのクルーで居るなら、何てことは無い。いつでもやめることができます。でも、オーナーとしてヨットを所有するのは、例えば、今から10年とか、そういう長い期間にヨットをやろうとする事が前提になると思います。結果はどうあれです。すると、その長い期間、10年とかそれ以上の期間に、どういう使い方をするか、どれだけ面白くするか、継続できる面白さがあるか、そういう問題になると思います。

1年か2年、ちょっと遊ぶというのなら、たいして突っ込んでいかなくても、充分楽しく遊べると思います。しかし、多くの方々が、その後、3年目ぐらいから、だんだん使わない事が多くなります。それでは、これから先どうするのか?そんな疑問も湧いてきます。

何故、使わなくなるのか?それは面白さが失われるからでしょう。最初は面白かった。でも、何度も乗るうちに、そういう面白さも当たり前になり、何度も乗るうちに、良い天候ばかりでは無いので、そういう事が嫌になる。面白い時は、そんな時でもそうは思わなかったのが、面白さを失うにつれて、そう思うようになったりします。

長い期間に、面白さを持続しようとするのは簡単ではありません。何故なら、ヨットは誰かが接待してくれるようなエンターテインメント性は無く、自分でエンターテインメントしないと、どうにもならないからです。つまりは、ヨットし始めた状態から、徐々に深く入っていくしか、面白さをキープする方法は無いような気がします。気持ちは体験をして面白さを味わいますが、徐々に慣れてしまいますから。操作に慣れるのは良いのですが、面白さにも慣れてしまいます。

ですから、ある程度慣れて、ある程度楽しさを味わったら、それが最初の1年、2年だと思いますが、その先、面白さを味わう為には、もっとヨットを知り、もっとうまくなるという道に進むしか無い。しかないと言いますと、しょうがなくという感じもでしますが、そうでは無く、やれば面白いのです。
是非、この先、どんな世界を味わえるのか、と興味を持って進んで頂きたいと思います。

自分のヨットを、いつかは自由自在に扱えるようになる。それは最高のフィーリングをもたらせるでしょう。是非、それを目指して、面白さを追求して頂きたいと思います。

各艤装の役割も解った、次はどの程度の調整量を、どういう時に行うかです。風も波もいつも変化していますから、その変化にどう合わせるか、これは永遠のテーマです。それを求めつつ、同時に、最も効率良く調整する方法も体に馴染んできますから、無駄な動き無く、簡単に、さっとできるようになるでしょう。しかも、殆ど無意識にでも。

それでも、常に変わる状況に最適にするのは難しい。上手くなればなる程、その難しさも解ってくる。それが面白さではないかと思います。ですから、最低10年は遊ぶという前提がある。今日から始めて、10年後にはどんなセーリングをしているのか? 楽しみではありませんか?もちろん、10年後だけが楽しいのでは無く、そのプロセスが楽しい、面白いという事は言うまでもありません。それには、少し面倒くさい事でもやる。

ヨットで走ろうなんて事は、この高度に発達した時代に、ボタンひとつで走れる時代に、あえて、面倒くさい事をしようという遊びです。何故なら、ボタンひとつ押して遊ぶより、いろんな事して遊ぶ方が面白いからです。人間はそういう風にできてます。でも、時折、怠け癖が出てきますね。そんな時は、難しい事考えずに、誰か誘って、デートセーリングでもどうぞ楽しんでください。

テニスをします。少し練習しますと、何とか、相手のボールを打ち返せるようになります。これでも何とか楽しめる。でも、10年後もこのままだったとしたら、その間ずっと楽しめるでしょうか?ボーリングでも点数が低くても最初は楽しめる。でも、そのままで、何度もやって、楽しめるでしょうか?年に1回か2回程度なら良いでしょうが。

それと同じで、技術を要するものは、技術を磨く事が面白さになると思いますね。それ無しで10年とか長期間を面白く味わう事はできないのではないかと思います。ですから、是非、興味をもって、深く入っていく事が長くヨットを遊ぶ秘訣ではないかと思います。簡単な事ではすぐに飽きてきますが、複雑すぎると嫌になる。では、少しづつ進むのが良い。何しろ、10年もありますから。徐々に、確実に、その時々の操船とフィーリングを味わいながら。

ヨットは少なからず知識と技術を要します。多くのヨットが動かないのは、その知識と技術が停止しているからではないか?旅をするにしても、旅といういろんな場面を見る行為、そういう冒険がいつも求められなければ、ヨットを出すという気にはなれません。つまり、意識はいつも先の何かを求め、その為に今必要な事をする。それが面白くなければならない。

10年以上の長い時間がありますが、今という時間は無い事が多い。忙しいといという日常の生活に、暇を見出せない。しかし、よくよく考えますと、それは面白さを見出せないから、忙しいという言葉に置き換えているのかもしれません。時間を考える前に、面白さを見出す意思が必要でしょう。
それは向上心やチェレンジ精神という事になるかと思います。

モーターボートの世界でも、釣りをするボートは比較的良く動いているようです。それは釣りという面白さが想像できていますから、そうなる。そうしたいという気持ちが現れるかと思います。でも、一方で、俗に言うサロンクルーザーなるものは、稼働率が低いようです。モーターボートにはヨット程の技術向上等はありません。という事は旅をするしか無い。旅という冒険こそが面白さを作る術だと思います。それ無しで、楽しくというのには限界があると思います。いつも、キャビンでお茶して楽しいと感じられるのは難しい。そういう場合は年に数回で良いという事になると思います。

それは、ヨットも同じで、キャビンでお茶したり、ピクニックセーリングしたり、或いは、どこか近くに行って、食事したり、これらは楽しいには違い無いのですが、年に数回で充分という事になりかねません。10年、或いはそれ以上の長い期間のヨットライフをどうするかを考えた時、はやり、そこに楽しさだけでは無く、面白さが中心になっていかなければならないと思います。それには、やはり、知識や技術の向上、冒険心、セーリングから得られるフィーリングの変化等が求められなければならないのでは、と思う次第です。楽しさで始めて、面白さに移行する事が長く続ける秘訣ではないかと思います。

ですから、1年や2年遊ぶ前提と、10年以上遊ぶ前提とは、同じ内容では有り得ない。1年、2年は楽しく、でも長くなりますと、楽しさと面白さを。そして、面白さには探究心が必要かと思います。その探究心はセーリングという方向と旅という方向、それにレースとう方向もありますが、そのうち、特に身近に、いつでも、誰でも、気軽にできるセーリングという方向性をお奨めしている次第です。その答えをデイセーラーというヨットに見出している次第です。もちろん、デイセーラーでなければならないわけではありません。でも、デイセーラーのセーリングは、やはり他とは違うと言いたいわけです。

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