第十一話 各部の役目

ヨット全体を見ますと、調整ができるものとできないものがあります。船体の形は変えられません。重量も変えられません。マストも変えられませんが、レーキ等は変えられます。但し、セーリング中に行うわけではありません。という事は、これらは、セーリング前に調整を要します。船底はきれいにとか、マストのレーキとかです。これらが基本、出発点にもなります。

セーリング中に変えられえる物は、それはより良く走る為に、いろいろ操作して遊んでくださいという道具である事を意味しますから、それらをどんどん使って、理想のイメージを実現しましょうという事になります。

ハリヤードは、セールを引き上げるものです。それだけでは無く、どの程度ラフにテンションをかけるかという意味も持ちます。一旦セールを上げても、風が強くなりますと、大きな力がセールにかかりますから、ハリヤードが伸びてしまう。すると、セールのラフにかかるテンションが弱まります。これはドラフトの位置の前後に影響を与え、ハリヤードが緩むとドラフトは後ろに下がり、逆にテンションをかける事によって、ドラフトは前側に移動する。(ハリヤードにテンションがかかったままウィンチで引きますと、おおきな力がかかっていますから、切れる恐れがありますので、セールから少し力を抜いた状態で行う方が安全です)

カニンガムは、セールのラフを下側から引く艤装です。メインハリヤードと同じ役目をしますが、異なる点は、メインハリヤードを引きますと、ラフにテンションをかけるのみでは無く、リーチ側にもテンションをかけてしまいます。リーチにテンションがかかると、セールは閉じる。ツウィストが減少するという影響を与えます。この点、カニンガムはリーチにテンションを加えない。

ブームバングをみますと、引けばブームが下に下がります。緩めれば上にあがる。これだけですと、ブームが左右に移動するという角度には影響を与えないことがわかります。バングを引けば、ブームが下に下がり、結果、リーチにテンションがかかる。という事はツウィスト量が減る。バングを緩めれば、その逆になります。

メインシートトラベラーを左右に動かすと、ブームは上下しませんが、左右に動きます。という事は、リーチにかかるテンションの変化は無く、ブームが左右に動くのみです。但し、このレールの幅は限られています。その範囲内の操作という事はクローズの時に使う事になります。それ以上ブームを出すと、トラベラーの効力範囲外になりますから、ではバングでブーム上下は調整しましょうという事になります。ブームを出すのはメインシートを緩める事、するとブームは外に出ますが、上にも上がりますから、バングで上下調整をします。

バックステーアジャスターはマストトップを後部に引きます。すると、マストトップは後ろに引かれ、同時にマストの中間部が前側に移動しようとします。それで、カーブができて、セールがフラットに、浅いドラフトを形成します。セールはマストがカーブした時にフラットになるようデザインされています。

ジェノアトラックには、前後にリードブロックが移動できるようになっています。つまり、ジブセールのフットとリーチ部分のテンションのかかり具合を、このブロックの前後位置でかえてやろうという事です。良く観察しますと、ブロックを後ろに下げますと、フットを引く力が大きくなる。リーチ側の力が抜けるという事が解ります。見れば解ります。想像してもわかります。逆に、前側にやりますと、フットの力が抜けて、丸いカーブを描き、その代わり、リーチ側にはテンションがかかる。これでセールの形を調整ます。ファーリングジェノアを少し巻いて走るような時は、リードブロックは動いていませんが、セールが前側に動きました。つまり、リードブロックを後ろに下げたのと同じ意味になりますから、その分前側に移動させた方が良い事になります。

最後に、シートですが、これを緩めれば、ジブセールでは、フットとリーチが緩み、角度も外側に出て行き、引け名ばその逆ですね。メインセールはブームがありますから、フットが緩む事はありませんが、リーチが緩み、外側へ出るという角度が変わります。

舵はティラーとラットがありますが、海水の流れが舵の板にあたって、水流を変える。それが針路を変えることになります。これは水流の流れに抵抗を加えている事になり、スピードを抑える事にもなります。という事は、舵は出来る限りきらない方が良い。という事です。

ひとつひとつの役目、働き、その時に何がどう動くかを良く観察すれば、後は、これらの応用で、セールをいろな形に変える事ができる。ひとつの操作で良い場合もあれば、ふたつ、みっつと組み合わせる場合もあります。でも、ひとつひとつを充分理解していれば、応用も可能になりますね。

これらを使いこなせば、後は、どんな時に、どれだけの調整をすれば良いかという大きなテーマが残ります。これが腕の見せ所という事になりますね。調整量というのが最も難しいテーマで、それは船体の持つ性能によっても違ってきます。乗り込んで、自分のヨットに最も合う調整量を見出していく事が、セーリングという遊びです。ヨットの性能と調整量とのバランスという事になります。しかし、風向と風速は無限と言って良い程の様々な形態を持ちます。という事は、微妙さを加えていけば、このバランスも無限にある事になりますね。おまけに、そこに波という要素が加わります。それがまた全体に変化をつけます。

ヨット、風、調整、波、ヨットが持つ本来の性能以外は全て、常に変化しています。言うならば、瞬間瞬間のバランスを持つ事になります。その変化の中で、ヨットと風/波との調整役をして遊ぶ。うまく行った時、いかない時、それは目に見えるスピードとして現われもするし、自分の内的フィーリングとしても感じられる。スピードを求めながら、最終的には、どんな感じを味合わせてくれるのだろうという好奇心。最後はやっぱりフィーリングを得る事ではないでしょうか。

いろんな操作は、より適切な調整量を求め、それはスピードに繋がり、そして最後はフィーリングに反映してきます。良いか悪いかという単純な分け方では無く、人間はもっともっと複雑な感性を持っていますから、できるだけ多くのフィーリングを得る事が、トータル的には、俗に言う良いフィーリングだけを求めるよりも、面白くなり、豊かさも感じられるようになると思います。ですから、その場では、より適切を求め、でも、結果感じるフィーリングには、良いの悪いのと評価を下さないで、そのままを感じるだけにした方が良いような気がします。

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