第九十七話 モーリスヨット

同社は米国東海岸のメイン州にある、セミカスタムの造船所です。外洋クルージング艇では34フィートから62フィート、デイセーラーのMシリーズは29フィートから52フィート、そしてパワーボートも2モデルを建造しています。はっきり言いまして、かなり高価なヨットです。

このうち、デイセーラーであるMシリーズを御紹介しておりますが、セミカスタムの建造は、このモーリスに限らず、ベーシック仕様はありますが、これらにプラス、オーナーの好みを反映させる手法で、納期も長い。よって、ハルナンバーごとに、価格が少しづつ上がっていきます。同じモデルでも、ハルナンバー#1と#2は価格が違うんです。

日本では量産艇の価格が基準とされる場合が多いので、それからしますと、全てのヨットは同じような価格か、或いはもっと高いかになります。量産艇より安いヨットはありません。つまり、基準が最も安いところにありますので、全てはそれ以上ということになります。

その中でも、モーリスヨットは非常に高い。それでも売れている事実。売れていると言っても、量産はできない、しないのですから数は知れたもの。でも、その分、職人の手間がかかっています。それだけ良いヨットができる。その高いヨットが、不況にあっても健在です。これが日本とは違う所?

 
モーリス34                       モーリス48
オーシャンシリーズ

 
M29                           M52
デイセーラーシリーズ

セミカスタムの標準仕様はあくまでベースです。従って、この先、どこまで自分の希望を取り入れていくかになります。予算なんか気にせずという感じになるんでしょうか?ちょっと我々の普通の感覚では無い。

そんな造船所がたくさんあります。プロダクション艇に量産艇があり、同じプロダクション艇でも、生産数を限定した造船所があり、その上にセミカスタムの造船所があり、完全カスタム、その上にスーパーヨットの造船所がある。後者になるに従って、建造艇数は限定されていきます。その分、多大なる手間がかけられる。

アメリカではハンターやカタリナは量産艇、アレリオンやセーバーはプロダクション艇ですが、量産はしない。そして、このモーリスや有名なヒンクリーやアルデンがセミカスタム、彼らはカスタム建造もしますね。スーパーヨットの造船所もいろいろあります。

米国東海岸というのは、アメリカの歴史上、最も古い都市、造船所の歴史も古い。それだけに、古い造船所がたくさんあり、職人も多く集まっている。かつてアルデン社を訪問した際、親子三世代、その造船所で働いてきたという人も居ました。

日本では、市場が小さいが故に、造船所が生き残る事はなかなか難しい。多くの造船所が失われ、技術も一緒に失われていきます。そう言えば、アメリカには造船技術を教えてくれる学校さえあります。その学校には世界中から集まるそうで、また、アメリカの金持ちなんかがサポートもしているとか。技術は継承されていってます。まあ、市場がでかいので、それができる。

我々日本は、そのたくさんの造船所から、その違いを理解して選択すれば良い。違いを知る事が重要ですね。みんな一緒で、サイズで価格を評価する。それで高いか安いか?そういう基準ではない。どんな使い方をするから、どんな品質と性能が必要か?

あるアメリカ人のオーナー、俺の使い方はこうだから、このヨットで良い。量産艇だろうが、カスタムだろうが、解っている事が大事なんですね。ですから、沿岸艇に外洋性を求めたりしない。

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