第八十九話 ヨットを始める

年を取りますと保守的になると言われます。確かに、新しい事を始めるには、かなりのエネルギーが要求されます。過去にヨットに一度もかかわった事の無い方が、これからヨットを始めようとなりますと、これは大変な勇気とエネルギーが必要かもしれません。まずは、これから始めるという方に敬意を表します。

さて、ヨットというものは、1年や2年乗って終わるというものではありませんし、ましてや遊園地に遊びに行って、その場で終わるというものではありません。長年に渡って、進化し続けながら、楽しんでいくものです。ですから、これから10年は遊ぶというつもりで、ゆっくり、気楽に構えて頂きたいと思います。何しろ、遊ぶ事に免許や練習が必要なんですから、そういうものは何でも長く遊ぶというのが前提になりますね。練習の必要の無い遊びは、その場限りでもOKでしょうが。

実は、ヨットは皆さんが考えている程、難しいものではありません。簡単に動かせるようになります。しかし、知れば知る程に奥が深いものです。ですから、10年でも20年でも続ける事ができるというものです。大事な事は、技術や知識もさる事ながら、自分のその都度のレベルで楽しむという事です。楽しさを知る事、これこそが最も必要な事です。

極端な言い方ですが、うまく無くても、楽しければ良いわけです。上手になれば上手なレベルでの楽しさがありますが、下手でも下手なレベルでの楽しさがあります。要はいつも、自分の楽しさを持つ事。そして、徐々にうまくなって、楽しみ方も進化していく様を、また楽しむ事につきます。

夢ははるかかなたの海の向こうにあるかもしれません。しかし、まずは目の前の海域で始めて、そこで楽しさを確認して頂きたいと思います。そこにヨットの魅力の多くが詰まっています。目の前の海域で乗るセーリング、日帰りセーリング、2時間か3時間ぐらいのセーリング、そういうのをデイセーリングと言いますが、魅力一杯のセーリングを、最も気軽に楽しめる方法で、初心者だからでは無く、ベテランにとっても、奥の深いセーリングを遊ぶ事ができます。セーリングの全てが凝縮しています。

まずは、ヨットを動かす事に慣れてしまいましょう。動かすだけなら簡単にできます。簡単に出来ますが、最初は緊張の連続で、楽しむというところまでは行かないでしょう。でも、すぐに慣れてきます。最初はエンジンだけで、自分の海域を走ってみます。海から見た陸の風景はどんなでしょうか?陸の建物、山などがどんな風に見えるでしょう?そして、自分のマリーナも確認して、周りに何があるのか、エンジン操作に慣れるとともに、確認してみます。

舵の感じ、舵を切って、どういう動きをするか?エンジンのスロットルを上げたり、下げてみたり。
まずは、エンジンでの走行に少し慣れた感じを得てください。風景に慣れてください。

ヨットには独特の名前が、各艤装につけられています。これらを知る事は大事ですが、でも、これは人と話をする時、本を読む時に必要であって、自分の中だけでは、知らなくても良いとも言えます。もっと大事な事は、その役目です。これらは、徐々に、覚えていく必要があります。しかし、実際に使って、動きを確認すればすぐに解るし、それと同時に名前も自然に覚えるものです。

始めてヨットで海に出る緊張感はどうでしょう?ここから進むに当たって、いろんな緊張感が出てきます。しかし、その緊張感さえも楽しむ事ができるようになります。それが、どんどん面白さに変わっていきます。

2,3度乗って、エンジンと舵に慣れたら、セールを展開します。風が吹いてくる方向から反対側に、自動的にセールは位置します。当たり前です。もう、それだけで、ヨットは前進します。たとえセールの形が悪かろうとも、ヨットは前進します。もうこれだけで、楽しさが少しづつ湧いてきます。実に簡単です。そして、これからがセーリングの面白さの始まりです。

セーリングに自分の意図を与えます。徐々に、時間をかけて、学んでいきながら、少しづつ進化してきます。進化は一生続きますから、一生遊ぶ事ができます。まずは、セーリングに進化していく事を遊んで頂きたいと思います。

基本は舵です。波が来る。風が来る。でも、ヨットはできるだけ真っ直ぐ走るように舵を取る事です。自分が意図して曲がる時以外は、真っ直ぐ走るです。それが全ての基本になってきます。これがあってこそ、そこを基準にセール調整がなされます。基準がちゃんとしないと、調整もしようが無い。舵こそが基本であり、最も重要だと思います。

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