第四話 HOW TO SAIL 

桟橋からエンジンで出れるようになり、セールを上げてとりあえず走れるようになるには、そう時間はかかりません。うまいかどうかは別として、兎に角、行きたい方角に行けるようになるのは難しくは無い。道路も無いし、脱輪する事も無いし、他の船との行き交いにちょっと注意を払って、浅いところに近づかず、網等を避けて、車に比べれば遥かに簡単であります。人通りも無く、急に飛び出す子供も居無い。

セーリングが出来るようになったら、どこかに行くか、セーリングをするしか無い。セーリングを求め、腕を上げたら、レースするか、セールフィーリングを味わうしかない。ハウツーセールは難しくは無いが、その後は奥が深いので、求めるか求めないかによって、味わいはかなり違ってくる。
それは人に寄るわけですから、強制もできず、ただ、求めれば、苦労もあるかもしれないが、それ相応のリターンもある。HOW TO FEELは簡単では無いかもしれません。

ある程度腕を上げたら、その先はセーリングとフィーリングの両方を求める。それが楽しむコツではないかと思います。長い事続けていたら、波もあります。でも、継続は力なり、ただ、続けるだけで、多くの恩恵を受ける。体が馴染む、気持ちが馴染む。馴染むにつれて、セーリングに対する感じも変わる。一体感を持てるかもしれません。頭で考えるより、体で感じられるようになる。後は、続ければ洗練もされてくる。これら習得した技術やフィーリングは一生のものでもあります。10年、20年とセーリングをするなら、高い技術と洗練されたフィーリングが身に付く。それは良い事でしょう。

ヨット遊びを単なる遊びにしておく事もできますし、それ以上の何かにする事もできる。幸か不幸か、ヨット遊びに毎回つきあってくれる人は少ない。ならば、ひとりで何をする?これはもうひとりなら、セーリングの質を追求していくのが良い。長い事続けるには、それ相応の大きな動機が必要です。セーリングの質を求めるというのは、それに値すると思います。

追求しだしたら、いろんな事に気付く。気付く自分が嬉しい。嬉しいともっとやりたくなる。すると、もっと性能の良いヨットがほしくなる。良い道具は、オーナーをもっと上のレベルに押し上げてくれる。
良い道具の見分け方もわかってくる。そうやって、長い時間をかけながら、自分のセーリング、自分のフィーリングを求める。そういう遊び方もある。

所詮遊びと馬鹿にしたものでもありません。ひとつの事に精通していくと、そこに大きなエネルギーが生まれ、そのエネルギーは全体に波及していく。そこから何かを生み出し、そこから何かを発見し、全体を覆うようになる。仕事に精通しようが、遊びに精通しようが、精通する事が大きなエネルギーを生み出す。いずれも、それらは人生の一部でありますから。きっとそうなんだろうと思います。たかがヨット、されどヨットでありますね。

いつか、誰にでも終わる時が来る。振り返れば、熟達してきたフィーリングは財産でもある。博打で一瞬のうちに得たものとは違い、コツコツと積み重ねた腕。どんなに大枚はたいても買う事はできません。長い時間が必要だし、インスタント時代には合わないかもしれない。でも、ひとつ、必死になってやてきたわけじゃない。その瞬間瞬間を楽しみながら味わってきたもの。終わる頃には感慨深い。そうする為には、今、決心する必要がある。今シーズンはセーリングをしてみよう。それだけであります。ある程度夢中になるには、ある程度突っ込んでやる必要があります。今シーズンはセーリングをやろう。シングルに挑戦しよう。

ファミリークルージングなんか諦めましょう。そんなものは、この日本では有り得ない。仲間を誘って、楽しいクルージングを?そんな事考えていては、いつ出れるやら。あっても、無いに等しい。それなら、シングルセーリングに挑戦しましょう。冒険こそが最大の動機になります。そして、冒険こそが面白い。素晴らしい物を見た時、感動の映画を見た時、良い音楽を聴いた時、ドキドキしますね。セーリングはそれに自分が実際参加して、創りだすのですから、これら以上であります。今年はシングルハンドでGO!

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