第95話 スポーツフィッシャーマンの試乗

先週ですが、あるボートを試乗する機会を得ました。元々パワーボートは嫌いだったのですが、
今回のボートは全く違い、私の嫌いな気持ちが吹き飛ばされてしまいました。パワーボートと
言うと、バンバン叩くし、振動ばかり、エンジン音はうるさいし、ちょっと乗っただけでも疲れて
しまう。過去には、有名なブランドのボートにもたくさん乗りましたが、どれも多少の違いはあれ
私の気持ちに変化はなかった。やはりボートは嫌いだったのです。ところが、今回のボートは
全く違う。次元が違う、そう思った次第です。

42フィートのフライブリッジ、フルサイズのツナタワーを装備し、600HPの2基がけ、トップスピ
ードは35,6ノット、非常に幅が広く、そして何と言っても水面に張りつくようにべたっとした重心
がいかにも低い。前部側の船底はまさしくディープV型、すごいフレアーです。スターンにおいて
もデッドライズ20度。デッドスローで6〜7ノットも出る。

海面はあまり波が大きかったわけでは無いのですが、時化の時に乗らなければ解らないと思っ
ていましたが、このボートはそんなものではなかった。まさしく次元が違った。波に叩かない、
時々、他のボートの引き波に突っ込んでも、実にソフト、決してバンとこない。前部の波は鋭い
フレアーで全て落とされ、波が全く上がってこない。さらに、コクピットに巻きこむしぶきも全く無し
コクピットの後ろに立っていて、全く濡れないのです。当然、チークコクピットも全くのドライ状態。
エンジンボックスのカバーに触っても、全く振動を感じない。30ノット以上で走って、コクピット
の真中にすっと立っていられる。実に安定した、ソフト&ドライ。オーナーは以前、台風が接近し
てきている中をどうしても帰らなければならないとして、一応出てみた。そして全く恐怖感も無く、
スーッと帰る事ができた。絶賛されておられました。こんなボートは無いですね。防音も行き届
いており音もそれ程うるさくはありませんでした。このオーナーはこのボートで8艇目、名だたる
ボートを乗り継いでこられた。そしてこのボート、全くの無名。1本のラインも無ければ、ブランド名
さえも無い。実は、このボートはセミカスタムで建造したボートです。ボートに対する見方が変わっ
てしまいました。これほど違うのか、こういう感じでした。凪の状態で乗っても、はっきり違うのが
解りました。

重心の低さ、船型、船体の硬さ等々がこれだけ重要なのかと思った次第です。ちなみに、床下
エンジンルーム、見事にきれいに整形されています。シンプルだが非常に丁寧に建造されたボー
トでした。これをウッドで建造したら、一体どうなってしまうのだろうか、と想像してしまいました。
ウッドは振動を吸収する。まさしく究極なのでしょうね。良いボートは疲れない。これはヨットも同じ
良いヨットは疲れないのです。

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