第81話 各艇のコンセプト パート3

さて、お次はオランダ製の外洋ヨットマリーホルム33です。このヨットはヨーロッパCEカテゴリー
において”A”のオーシャンを取得した艇ですが、本当の所はどうでしょうか。水線長は24フィート
です。排水量は11,300ポンド。水線長/排水量比は364となります。これは中排水量をやや
超えて重排水量の範疇に入ってきます。セールエリアは532平方フィートです。このセールエリア
と排水量比の関係を見ますと、16.9という数値です。キールはロングキール、船体の幅は3mと
狭く、これは長さ/幅比で見ると、前記ノルディックフォークやアレリオンと同じ比率なのです。

さて、これから解る事は船体は重いですね。確かに、かなりの積載貨物を積む余裕があると言える
でしょう。船体の頑丈さも充分にある。ロングキール、バラストは2tでバラスト比は39.2%です。この
ヨットの船体デザインの重心の低さを含めて、復元性を見ますと、復元性消失角度は180度となって
います。つまり、180度まで転覆するまでプラスの起きあがろうとする力があるという事です。こういう
ヨットは初めてです。重い排水量は微風にはスピードが出ない。しかし、強風時には強い。波あたりも
柔らかで、まさしく外洋向きのヨットです。排水量に対するセールエリアが16.9というのは、クルー
ジングヨットとしては中程度、セールエリアが小さ過ぎず、大き過ぎずというところで、性格的にはCE
カテゴリーの通りAというのはうなずける数値だと思います。ショートクルージングというコンセプトより
ロングクルージングを意識したヨットですね。

艤装的にはフラクショナルリグ(9/10)、マストコントロールをやや意識しており、セルフタッキングジブ
が標準というコンセプトはロングクルージングだけども、シングルハンドによる容易な操船という事を加味
し、ややショートクルージングでもこなせるような、そういう造船所の意識が見えます。ただ、ジブをジェノア
に変えてやれば、セールエリアを稼げる。重い船体に広いセールエリアとする事も考えられる。

こういう風に見ていきますと、ヨットのコンセプトが大まか見えてくると思います。それで、このヨットの性格
が把握できますので、だいたい乗ってみるとどのような感じなのかも想像つくでしょう。それで自分のコン
セプトと照らし合わせてどうかを検討されると良いでしょう。

これまで取り上げました3艇はいずれもコンセプトを明確に打ち出したヨットです。モデル数も少なく、造船
所のカラーを色濃く出した小規模生産の造船所、ある一定のコンセプトに特化した造船所です。こういう
ヨットはコンセプトさえ合えば、最高のヨットとなるでしょう。

一方で、モデル数も多く、大規模な生産をしている造船所もあります。そういう造船所はどういうコンセプト
を持って建造しているでしょうか。次から取り上げていきたいと思います。

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