第49話 物にも心あり

人間に心があるのは当然ですが、物にも心があると思うのです。物が本来のあり方を
ちゃんとまっとうできるようにしてやるのが良いと思います。そうでなければ失礼になる。
もったいない、という事になる。最近ではあまり聞かなくなった言葉ですが、一昔前まで
は良く聞いたものです。もったいない。

大事にされたヨットはいつまでも元気ですね。古くなってもちゃんと働いてくれます。ほった
らかしにすると少しづつ不良になる。その不良具合は本当にぐれてしまう前からちゃんと
信号を出して知らせる。それが解れば、大きなトラブルになる前に手当てができます。

理想的にはそのヨットが持つ全ての機能を使ってやる事ではないでしょうか。使えば、
すぐにその反応が解る。機嫌が良いか、悪いか。ヨットの持つ第一の本性はセーリング
にあると思います。セーリング以外にも、宿泊の機能、宴会できる機能、トイレ、ギャレー
エンジン、その他、多くの機能を持つ中で、まず第一はセーリングです。何故なら、セーリ
ング以外はヨットで無くともできる。セーリングだけはヨットでなければできない。だから、
セーリングこそが第一の機能なのです。この機能を充分に働かせる事は、セーリングで
しか味わえない感覚を得る事になります。これこそがヨットのヨットたる所以ではないでしょ
うか。その他を不要と言っているのではありません。2番目、3番目と言っています。

まず第一に、充分にセーリングをしてやる事がヨットを大切にする事だと思いますね。エン
ジンを使うのも良いですが、やはりセールを第一に使ってあげましょう。その方が得ですよ。
何故かって?セーリングはヨットでしか味わえないのですから、他の事ならヨットで無くても
味わえるのです。恐らく、ヨットはセーリングしている時が最も嬉しいに違いありません。まし
て係留されたままほったらかしたら、本当にぐれて、久しぶりに乗ったらトラブル続出という
事になるでしょう。仮にセーリングできない時でも、船に来るだけでも違ってくるんじゃないで
しょうか。来れば、ちょっと窓を開けたり、エンジン掛けたり、片付けたり、一杯飲んだり、何か
するでしょう。それでも良いんだと思います。時にはヨットのご機嫌伺いに行って下さい。

テレビは見れてテレビ、時計は時を刻んで時計、車は走って車であり、ヨットは帆走してこそ
ヨットとして生きる。そうやって物の本来の働きをさせてやるのが務めではないでしょうか。
そうすればオーナーにちゃんとお返しをしてくれると思いますよ。快適さも、辛さも、スリルも
感動も、緊張感も、弛緩も、ありとあらゆる感情を引き出してくれます。快適だけで良いなんて
言っては不充分なのです。快適さしかなかったら、それはもはや快適では無く、普通の事な
のです。それではヨットは退屈なものになってしまう。他のスポーツでも同じです。野球の打席
に立ったら、必ずいつもホームランを打てるとしたら、こんな退屈なスポーツはありません。サ
ッカーで自分がボールを持てば必ず100%ゴールできるとしたら、面白くも何とも無いじゃあり
ませんか。ゴールできる時もあればできない時もある。

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