第八十八話 地元

私の地元は福岡です。東京から見ますと遠く感じられるかと思います。しかし、今や東京と福岡なんて、そう遠いわけではありません。アメリカの東海岸と西海岸の距離からしますと、遥かに近い。まして、ヨットは海外から持ってくるわけで、それを考えますと、目と鼻の先とも言えます。

それは兎も角、関東に納める場合でも、できるだけ地元の福岡で艤装を完了してから、納艇する事を基本にしています。それは一見無駄に見えるかもしれませんが、輸入してきたら、関東に直接入れて、そこで納艇する方が合理的でありますし、費用の節約にもなります。しかし、それでも、地元で艤装する事を基本にしています。

ヨットはちょこちょこっと使って終わるというような使い捨てとは違い、何十年と使われていくものです。それを考えましたら、最初に、きちんと整備しておく方が良いと考えます。また、海外から輸入してきた場合、マスト立てて云々すれば終わりというケースは殆ど無く、部品が足りないとか、何かが動かないとか、ちょっとした不具合や調整等やるべき事は少なくありません。

地元福岡では、ヨットに関するあらゆる事に対応できる体制があります。それが最も大きな理由です。カバーを造る、ビミニ、ドジャー類、FRP、金属加工、エンジンに関する事、木工関係、ヨットはあらゆる分野にまたがっておりますので、地元でした方が確実であると考えるからであります。それに、各業者さんとの信頼関係もあります。これが最も重要かもしれません。

アレリオンなど、一旦福岡で全ての艤装をして、検査も取って、トラック輸送する時は再びマストを抜いて運びます。現地マスト立てには、福岡から行きます。一旦全ての艤装をしますから、現地での作業は簡単です。それに、業者として、造船所ではしない事にも対応する事ができます。計器類の設置とか、どこにどういう風に設置するかもありますし、塗装にしても、オーナーの細かい要望にも応える事ができます。船名ひとつとりましても、3回も4回も作り直して張り替えた事もあります。

それぞれの業者が地元に同じようなネットワークを持っているかと思います。ですから、地元でやるのが一番良い。単発的な仕事依頼ではうまくいかない事もある。それにずっと長い間、見張っておけます。気持ちが違う。

ヨットというものは、もちろん造船所が造りますから、造船所の力が一番大きいのですが、業者の力も影響すると思います。業者の力と言っても、自分だけでは無く、周辺の協力業者の総合力になります。受け取ってから、オーナーに引き渡すまでの、最後の仕上げと言っても良いかと思います。小さな部分かもしれませんが、大事な部分と考えています。

ですから、地元でやるのが一番、日本中にネットワークを持つのが最も良いのかもしれませんが、そう簡単では無い。特にマリン業界はそうかと思います。ヨットが導入期から、成熟期に入っていくという話を以前書きましたが、同様に業者も同じではないかと思います。業界全体も、導入期から成熟期に入ろうかという段階かと思います。これが成熟してきたなら、どこでやっても良いのかもしれませんが。マリン業界はまだこれからです。もっと成熟しなければならない。もっとたくさん売れるような市場になりますと、成熟度は加速するのでしょうが、マーケットは小さいだけに、ゆっくりであります。ですから、少なくとも地元では、各業者がネットワークを構築できるでしょうが、日本全国とはいきません。まだそういう段階なのかと思います。

マーケットが成熟し、業者も同じように成熟していく。どっちか一方だけが成熟する事は無いと思います。まだまだ勉強していかなければなりません。東京の業者さんが、福岡の整備会社にポンと渡して、お任せというのも時々あります。業者さんは、進水式の時だけ来る。それだけ任せる事ができれば、安心なのですが。

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