第九十六話 物事が分かれてきた

格差は社会問題になってきましたが、その他にも、いろんな格差と言いますか、分離が明確になりつつあるような気がします。持てる者、持たざる者、楽しんでいる人、楽しんでいない人、乗る人、乗らない人、意欲がある人、無い人、頑張ってる人、頑張っていない人、いろいろありますが、ちょっと昔は日本国民総中流意識というのがありました。自由な資本主義社会には稀有の存在だったのかもしれません。その日本も、規制が取り払われたり、もっと自由をとなり、それがいろんな面で格差、分離を生み出してきたのだろうと思います。

ヨット社会においても、しょっちゅう乗る人は乗るし、乗らない人はほとんど乗らない。そういう差が大きくなっていっていると思います。そこに明確な目的があるか否か?それがその差を生みだしているのではないかと思います。ヨット人口の殆どはクルージングとか言います。レースは少数派。でも、レースする人は明確なビジョンを持つ為に、良く動いています。一方、クルージングというのは実に曖昧な定義で、その曖昧さがヨット離れを引き起こすのではないかと思います。

何を目的にしているのか?一番の目的は何か?それが実に曖昧なのです。クルージングの定義、これは本来は、レースをしないからクルージングという事では無く、クルージングは旅を意味すると思います。それも長い旅で、あっちこっちうろうろしながら長い旅を楽しむ。それがクルージングであって、レース派以外はみんなクルージングというジャンルに押し込んでしまったのが、そもそもの間違いなのではないでしょうか?

レースはしない。でも、長いか短いは別にしても、少なくとも何日間かに渡る旅を主体に楽しむ。それがクルージング派という事で、その他は、クルージング派と言いながら、旅を楽しむわけでも無く、ちょっと出てはかえってくる。レースでは無いので、クルージング派のように。でも、やはり旅とは縁遠い。そこで、レース派とクルージング派とは別に、デイセーリング派と名付けたいと思います。

2〜3時間のセーリングを楽しむ乗り方から、ちょっと出て、向こうの島に渡って上陸するのも、入江にアンカー打って楽しんだり、みんなを誘ってセーリングしたり、つまり、日帰りから2,3日のセーリングを含めて、レースでも無い、旅でも無い、動かさないでキャビンで寛ぐ使い方も含めて、そういうジャンルを明確にしたいと思います。本当はこのジャンルが最も人口的にも多いのではないかと思います。長くて2〜3日、通常は日帰り、そういう使い方でのバリエーションです。この使い方が明確になりますと、もっと稼働率が高くなるのではないかと思っています。

この中でもオーバーナイトはそう頻繁には無いと思われます。基本的には日帰りです。その日一日で何ができるのか?何を主体にしたら良いかです。この主体が無いと、何でもできると言いながら、何もしないという事になりかねません。キャビンを別荘代わりに使えます。でも、これを主体の使い方にできるか?向こうの島に渡って?仲間を誘って、家族を誘って、1日を遊ぶ。宴会する。泊まる。海水浴、キャビンで読書、いろいろあるかもしれませんが、何かひとつその中のひとつを軸として遊ぶ事ができるのか?ここに上げた全てを遊ぶ事ができますが、主体にできるのかと言いますと、疑問を感じます。これらはみんなバリエーションのひとつにはなっても、なかなか主として遊ぶには、何か違うような気がします。何故か?と考えますと、探究するものが無いからではないかと思います。1度や2度なら良い。でも、何年も続くヨットライフにおいて、わくわくさせる程のものがあるのか?そこが問題ではないでしょうか?

喜びがあり、スリルがあり、時には困難もある。感動もすれば、恐怖を感じたり、緊張したり、それだけに挑戦のしがいがあって、わくわく感もある。そういう感情の動きが無い処に、何年も何年も、しょっちゅうやれるのかと言いますと、それは無理な話でしょう。ある日、最高の風で、気持ちの良いセーリングが出来たと感じたる事があります。偶然にでもです。でも、今度乗ったら、同じようになるかと言えば、そうは行かない。たまたまの偶然だけに任せるか、否、それをもっと求めて行こうとするか?考えられるいろんな使い方をしても良いと思いますが、その中にこれという一点の軸を持つ事によって、使い方は違ってくると思います。それがあるか無いか?

この使い方のジャンルにおいて、セーリングを求める事をお勧めしてきました。今のところ、これ以外にわくわくさせるパワーを持つ使い方が他にあるかどうか?セーリングを軸にして、その他はバリエーションとして遊ぶ。これが私のお勧めですが、もし、セーリング以外に軸とできる何かがあれば、それはそれでも良いと思います。少なくとも、何が軸で、何を楽しみたいのか?暇があるなら、こうしたいという軸を持つのが良いと思います。バリエーションはバリエーションでしか無い。軸を中心に、時に島に渡り、時にアンカリングして、時に昼寝でもします。でも、軸が最もエキサイティングで、わくわくできて、面白くて、そういう軸で無ければ、何年も続けるというのはなかなか難しいかと思います。

セーリングはそういうわくわくさせるパワーがあると思います。1時間でも2時間でも、その中に濃縮できます。挑戦もあるし、冒険もあるし、感動も、退屈感もスリルも、恐怖も、喜びも、緊張も、ほぐれも、気持ちさえその気になって乗れば、ありとあらゆる感情が湧いてきます。ほんの短い時間で、とても充実感を味わう事ができる。こういうジャンルの方には、是非、デイセーリングをして頂きたいと思います。それを軸にして、他はバリエーションとして。軸があれば、ヨットが動く。乗りたくなります。乗れば、バリエーションを楽しむ機会も増えるし、ヨットをもっと知ろうとするし、もっとコンディションを整えようとも考えるようになる。良い事ばかりなのです。軸が無いと、何と無く乗りが悪くなる。あれでも良いし、これでも良いし、それらは、どうでも良いともなり兼ねません。2回に1回だろうが、3回に1回の割合だろうが、自分の軸はこれという何かを心に持つ事が重要だろうと思います。これを楽しむのが目的でヨットを手に入れたんだという事です。その決心が、全てを変える?
ヨットですから、セーリングに精通したい。当たり前の事かと思います。自由自在を目指してみませんか?これは物に頼っているわけでは無く、技術とか慣れとか、感情とか、目には見えない感覚的な物。それは限界が無いし、お金で買う事もできない。だからこそ、簡単に手に入らないからこそ、手ごたえを感じるのではないでしょうか?もっともっと多くの感情を手に入れる。面白さはこれではないかと思います。

もはや持ってるだけで満足できる時代ではありません。ここに留まるとまた、近い将来大きな格差となって現れると思います。その格差はヨットが小さい大きいでは無く、楽しんでいる人、居ない人、乗れる人、乗れない人、そういう差がどんどん大きくなる。そして数年後、自分がどっちにいるのか?どっちに居たら面白いのか?今楽しむ事が、将来も楽しむ事になると思いますね。

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