第三話　スリル

スリルは受取側によっては恐怖となりますし、面白さにもなります。という事は受取側の気持ち次第、起こっている事実には関係無く、受取側の感じ方次第という事になります。恐怖は誰も味わいたくありませんが、面白さなら味わいたいものです。

セーリングというのは、事実がどうであれ、どのように感じるかが重要で、他人が何と言おうと、自分が面白いと感じるかどうかが最も大切かと思います。スリルはその感じ方のひとつです。スリルを面白いと感じる為には、ヨットに対する信頼と自分の腕に対する信頼が必要になるかと思います。この二つの信頼があればこそ、スリルを面白さとして感じる事ができると思います。

自分のヨットが、どのくらいの強風にどのような動きをするのか？それは徐々に広げていくしかありません。ちょっとだけ覗いてみる感じでしょうか？無理はいけませんが、どうしようかな？と迷う時、ちょっと勇気を出して、出て見る事も必要かと思います。その時はメインセールを最初からリーフして、ジェノアの全部は出さないとか、或いは、メインのみにするとか。

最初の気持ちの持ち方があると思います。こんな日に出しても楽しく無いと思う事もあると思いますが、どんなかな？ちょっと興味がそそられるような気持ちがあれば、その後の感じ方も違ってくると思います。確かに、楽では無いでしょうし、スプレーも浴びてびしょ濡れになるかもしれません。それでも、気の持ちようによってはそれが面白さになる事もあると思います。案外、ヨットは安全なんだなと感じたなら、その後はもっと面白さを感じる事ができるようになると思います。デイセーリングというのは、ちょっとそういう事を試す事ができます。ロングならこうはいきません。耐えて、耐え抜かねばなりません。しかし、デイセーリングなら、ちょっと無理を感じたら、すぐに引き返す事ができます。そして、今日のセーリングはどうだったか、体が記憶していますから、その後のセーリングの乗り方に参考になるでしょう。もうちょっといけそうとか、限界とか。

何ノットの風なら出れる云々は、自分で判断すべき事で、感覚的に解る事、自分で面白いという感覚を少しづつ時間をかけながら広げれいく方法もあります。心構えができていれば、スリルを面白さに変える事もできれば、逆に嫌な思いしか残らない事もあります。よし、今日はやってみるかと濡れる覚悟でいけば、多少の事で恐怖になる事は少ないと思います。おおいなる緊張感は味わうでしょうが、それは面白さの範疇になるでしょう。

逆に、風が弱い時、これも気の持ちようかもしれません。軽風でどの程度走れるのか？と興味を少しでも持つ事ができるなら、これも面白さにする事ができるかもしれません。これも強風と同じように難しい事かもしれませんが？軽風の時は普段使ってこなかったスピンやジェネカーを試してみるというのも良いかもしれません。失敗してもたいした事にはならないでしょうし。練習のつもりでやって見る事ができます。

デイセーリングというのは、このようにいろんな乗り方を試す絶好のチャンスになります。いろんな事に少しだけ挑戦してみる事ができます。大きな冒険には、相当なる覚悟が必要ですが、小さな冒険を何度もやれる、ちょこっとだけのプチ冒険。無理ならいつでも引き返す。

そういう意味では、デイセーリングには性能の良い物、反応の良い物、そういうのが面白くなる。何しろ、セーリングそのものを遊ぶわけですから、あまり鈍いのは、ちょっと面白さには欠けるかもしれませんね。走るならスポーツカーの方が断然面白いわけです。過ぎるのもいけませんが。

スリルのスぐらい味わったら、それで何度か載っていきますと、今度はスリルのスリぐらいまで行ってみる。自分の腕も上がってきているでしょうし、自分のヨットがどの程度なのかも解ってきていますから、感じとして解って来ると思います。そうやって広げていけば、載れるチャンスは多くなる。１時間でも、３０分でも良いかもしれません。エンジンで出て、やっぱり無理と感じたら、帰ります。あくまで自分の感じとして面白さが刺激されるかどうかが基準になると思います。嫌な思いはしない方が良い。デイセーラーのお手軽さがありますね。ロングなら耐え忍ぶしかありません。

ある方は大きくヒールさせて走るのが面白かったと言われる方もおられます。効率という面では、良くないのでしょうが、それを解った上で、大きくヒールさせるのが面白く感じられたそうです。最初は恐怖だったらしいのですが、慣れて、この程度ヒールさせても大丈夫なんだと感じられてからは、その恐怖がスリルとなって、面白さに変わっていった。用心は必要ですが、過ぎたるはまた面白さが減少していきますから、このさじ加減を感覚的に調整しなければなりません。でも、まあ、プチ冒険を楽しんでみるというのが、デイセーリングの面白さのひとつかと思います。

それだけでは無く、いろんな事を試す事ができます。ジェノアとメインの２枚の時の走りと、メイン１枚だけの走りではどれだけ違ってくるのかとかです。スピードはもちろん、上り角度はどれだけ変わるのか？ジブだけならどうか？メインのトラベラーはどの程度落とすのが良いか、ただ走るだけではクルージングと一緒になってしまいますから、慣れたら、少し調整の妙を考えてみるのも良いと思います。遊びですから。そして、これが少しづつ解っていきますと、それが面白さになっていきますから、飽きる事は無いですね。深く深く入っていく遊び。レーサーじゃ無いにしろ、そういう遊びをしても悪く無いですね。そこに面白さを感じるかどうかですが。興味を感じるというのは、そこに変化が感じ取られている証拠ですから、その分自分の感覚も繊細になっています。違いが解れば、誰でも面白くなる。違いが感じられないなら、面白くありません。自分の感覚に集中してみる事は大事かと思います。そして、それに加えて、ヨットの持つ性能が左右します。デイセーラーとはそんなヨットだろうと思います。決してレーサーではありませんが、そういう事を楽に感じられるように設計されますし、それがデイセーラーの面白味かと思います。

レーサーはレースする時に最も活きるし、クルージング艇はクルージングする時に最も活き、そしてデイセーラーはセーリングする時に最も活きる。

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