第二話 普段着

最近ではこういう言葉も死語かもしれませんが、昔はこれは普段着、これはよそ行きと分けていたものです。よそ行きだから汚しちゃいけませんてな具合です。その分、子供としても気を使わなければならなくなります。気楽に遊んでは居られないわけです。最近の子供は、普段着もよそ行きも無く、気にいった服装をしているようです。

我々の生活にも普段着の生活、よそ行きの生活があります。遊びの場、公式の場、仕事、いろいろありますが、自然にそれを使いわけています。それで、遊びの場というのは、普段着の寛ぎがほしいですし、これがよそ行きになりますと、心から楽しむ事ができなくなります。遊びがお付き合いとかになりますと、これは遊びでは無く、仕事か公式の場になります。

さて、ヨットはどうかと言いますと、遊び方によっては公式の場にもなり、或いは純粋の遊びとして捉える事もできます。どっちにしたいか?これがまずひとつのポイントです。

アメリカでは小さなヨットやボートはトレーラーで引いて、家の庭先に置いておく事ができます。ヨットはいつも目の前にあります。メインテナンスもガレージで行える。そして、休日には、トレーラーを車で引いて、湖や海にセーリングをしに遊びに行く事ができます。そういうトレーラーで下ろせる施設が整っています。キャンピングを兼ねたセーリング。それで、小さなヨットなどはトレーラーで引けるようになっているかどうかもセールスポイントになる。こういう使い方が日常ですと、セーリングは非常にカジュアルに感じられます。普段着の遊びになります。

ところが、日本はこうは行きません。日本は海に囲まれた恵まれた環境?にあるようで、なかなかそうはいきません。トレーラーで引いて、庭先には置けない。第一、ボートを下ろす施設が整ってい無い。マリーナの保管料も安くない。最近は漁港だって地域によっては安くありません。海岸線の多くは商業港に牛耳られ、本船が行きかう。なかなか簡単では無いんですね。それで、マリーナに行くのに、2時間も3時間もかかったりしますと、カジュアルでは居られない。

それで、どうしてもヨットという物を特別な物に祭り上げてしまいます。アメリカ人が大きなヨットばかりで遊んでいるかと言いますと、決してそうでは無く、ディンギークラスも多い。それは彼らが、ヨットを実に気軽なおもちゃとしてみなす事ができるからだと思います。それがあるから、セーリングが実に身近にある。少なくとも、日本人よりは遥に身近に感じていると思います。

エンジンはマリーナから出れば要は無い。すぐにセールを上げるから、サイズによってはエンジンさえ不要でもある。と言います。こんな具合ですから、エンジンは少し小さめだったりするわけですが、あまりエンジンを重要視していないのかもしれません。日本では船外機は人気がありません。でも、マリーナから出るだけだったら十分なのです。

日本ではヨットは特別です。特別ですから、特別な装備でなければなりませんし、できるだけ何でもできる物が好まれる。それらが、よりヨットを遠ざける原因にもなるんですが、でも、環境的にもそういう風にならざるを得ないところがあります。

そこで、敢えて、ヨットをもっと身近に感じられるように、普段着のヨット遊びにできるようにならないもんかと考えます。マリーナまでの距離は仕方ありません。では、ヨットに対する接し方をもっと普段着にできないものでしょうか?いろんな物を取り付けるより、よりシンプルにして、遠くまで行くよりも、近くの海域を回数多く、その為には、マリーナに来たら、さっと係船策を解いて、簡単に出られるように、ご馳走なんか準備しないで、コンビニ弁当で済ますとか、一度のたいそうななセーリングよりも、2回3回のデイセーリングを。ヨットのサイズを少し小さめにするのもひとつの方法です。これでも気軽さが生み出される。気軽さが生み出されますと、セーリングにより集中する事ができる。面白さにもっと集中できる。

日本では殆どのヨットに夜間航行を取っています。という事は航海灯が必要になり、バッテリーが必要になり、バッテリーあがりを心配し、チャージャーも必要になります。でも、実際は殆ど夜間航行はしていません。もし、それが必要無いなら、バッテリーが不要になります。まあ、船外機ならばですが?キャビンの照明にしても、乾電池式の照明がいろいろ売ってますし、キャンプ道具の店にけば、いろいろあります。乾電池式なら、バッテリーあがりも気にならない。

まあ、どこまでやるかは人次第ですが、もっと気軽にやれる方法を考えても良いような気もします。冷蔵庫を積んでも、アイスボックスの方が手っ取り早いし、効果的という事もあります。不要と思われる物をどんどん省いて、シンプルにしていけば、その分心配事は減少し、気楽になり、その分遊びに集中できるのではないか?全てとは言いませんが、これも一理有という気がします。

とにかく、普段着のセーリングをする事、気軽にセーリングする事、そういう事をベースに持っている事が、ヨットを楽しむ最大の秘訣ではないでしょうか?これがあればセーリングに親しむ事はより容易になるような気がします。アメリカに行きますと、家族で小さなヨットに乗っていたり、女性だけだったり、子供が居たり、年寄りがディンギーで遊んでいたり、20フィートどころか、もっと小さなサイズがたくさんあります。こういうので親しんで行ったら、先々はもっと違うヨットライフになるのではないかと思います。施設的な環境とかは、個人でどうなるものでもありませんが、少なくとも自分でできる範囲においては、普段着を着るように心がけた方が、面白い遊びができるのではないかと思います。むしろ、その方がカッコイイかもしれません。自転車でちょっと気軽なサイクリングという程度には無理かもしれませんが、できるだけ身近に感じられる姿の方が、こなれている感じがカッコイイと思いますね。

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