第九十五話 一日

1週間も2週間もかけて何かをするというのも良いもんです。それができるなら。たとえそれができるにしても、年に1回かもしれません。或いは、数年に1回かもしれません。そういう大きなイベントは、そう何回もできない。数ヶ月に1回ぐらいのペースで、1週間とか2週間とか、そういう旅ができれば良いかと思います。でも、大抵はそうはいきません。良くて年1回ぐらいか?

そういう大きなイベントは、それとして置いといて、通常はどうするか?やはり1日をどう過ごせるかになるかと思います。1泊2日程度でも、そんなにできないなら、日常の過ごし方をどうするか?いつかは、あそこに行ってみたいと思いながら、それでも、通常の1日をどう過ごすか?

1回のセーリングを目一杯と考えるよりも、気軽に回数を増やす方が良くないか?回数が少ないと、丁度良い具合の天候に当たる確立も少なくなります。よって、回数を増やして、増えれば、良い時にもぶち当たりやすい。回数が増えますと、1回に乗る時間も、1日中、目一杯で無くても良い。無理がありません。余裕のある気持ちで、半日程度をセーリングに当てる事ができます。

2〜3時間程度のセーリングであれば、集中する事もできます。集中できれば、セーリングの面白さを味わう事ができる。セーリングの微妙さ、ボートの性能、味わいを得る事ができる。

回数が増えますと、家族でも無い限り、なかなかクルーを確保するのは難しくなります。今日は来れないという事が多くなる。そうなりますと、自分ひとりでセーリングできるようにすると、クルーが来ても、来なくても、何ら影響を受けません。

一人なら、自分のやりたい乗り方で自由自在にできます。のんびりしたい時、或いは集中して走りたい時、自由自在です。

という事は、基本的には、シングルハンドでデイセーリングをする事を基本に持っていれば、後はどうにでもなる。それで、デイセーラーが良いという理屈になるわけです。

デイセーラーとは言いましても、遠くにいけないわけではありません。外洋は無理にしても、沿岸のセーリングを1日として考えれば、どこまでも行けます。ただ、長距離で何日もキャビンに寝泊りでは気分的にしんどいかもしれませんので、ホテルや旅館を利用しても良い。そう考えれば、コースタルの長距離だっていけます。

まあ、それは兎も角、日常にある1日という時間の最も面白いセーリングを基本に、面白く過ごせるなら、まあ、あまり遠くに行きたいとは思わなくなるかもしれません。何故なら、デイセーリングの楽しみ方は長距離のセーリングとは違うからです。

セーリングに集中して、セーリングが持ついろんな面を味わう事ができるデイセーリング。セーリングそのものを味わうセーリングは、長距離においては、そんな事はできなくなる。2〜3時間だからこそ集中してできる事かもしれません。それが1日8時間とか、それも何日も続くとしたら、そんなセーリングの微妙さなんかを味わっていられない。

ですから、セーリングと旅では、全く性質が異なっています。同じヨットを使ったとして、味わい方が違う。セーリングの面白さと旅の面白さは異質であります。ですから、セーリングをする時は、セーリングを味わい、旅をする時は旅の醍醐味を味わう。それぞれ使い分けする事になります。旅をする時、上り角度がどうこうとか、しょっちゅう舵を握っているとか、そういう事の味わいなんかは、構っていられない。

旅が好きで、しかもそのチャンスもたくさんあるなら、それで良いのですが、1日という単位で遊ぶ事が多い方の場合は、やはりデイセーリングとして、セーリングを堪能する事をお奨めします。セーリングにおいて旅と同じマナーでは、面白さも減少していくでしょう。それは、旅においてセーリングの妙を味わう事がなくなるのと同じです。旅は旅のマナーで、セーリングはセーリングのマナーで遊ぶのが良い。

そうしますと、旅に合うヨットにするか、セーリングに合うヨットにするか?という問題になります。結局は、自分のフィーリングがどっちによりフィットするのか、という事になると思いますが、セーリングを面白いと感じるかどうかになります。ただセールで走っているというだけでは無く、その操作とリアクションを楽しめるかどうか?そこが面白いと感じないと、セーリングそのものを中心とする事はできないかもしれません。でも、それには実際やってみないと。

今あるヨットで、旅のマナーでは無く、セーリングのマナーで、2〜3時間のセーリングを集中してやって見てください。いつも気にしないセールカーブを観察して、シートだけでは無く、トラベラーを動かしたり、もしあればバックステーを調整したり、それで、セーリングがどう変わるのかを確かめてみてください。それは結果がどうかというより、そうやって自分が何かを意図し、その反応を味わい、そういう体験に面白さを感じるかどうかです。もちろん、ヨットの性能によって反応は違います。敏感なヨットなら、操作に対して、鋭敏に反応してくる。逆に、鈍感なら、反応がわからないかもしれません。それでも、操作をして、何かを感じる。そこにわずかでも面白さを感じたなら、セーリングをもっと追及していきますと、もっと面白さを感じるでしょうし、もっと鋭敏なヨットならもっと面白いかもしれません。

敏感なヨットで旅に行くのはしんどい?でも、1日単位の旅であるなら、それほどしんどいとは思わないと思います。何日も何日も、丘に上がらない旅ならいざしらず、1日単位なら、それほどでもない。まして、エンジンで行くなら尚更です。

という事で、デイセーラーで日常はセーリングを味わい。もし、望むなら、コースタルの旅もできる。
結局は多くの方々の一般的な使い方はこれでしょう。大きなキャビンを持つヨットが多い中、本当はこういうデイセーラーが最も使い勝手があるのではないかと思っています。大きなキャビンはロングの旅か、別荘代わりに使うには良い。しかし、それ以外にはあまり効果的では無いように思います。ただ大きなキャビンがあるという事実だけです。実際はあまり有効活用されていないように思えます。その分、日常の、1日のセーリングを難しくするし、シングルをも拒否するかもしれません。大きなキャビンを決して否定するつもりはありませんが、用途によります。何かを得れば、何かを無くす。何を得、何を無くすか?それが重要かと思います。それを決めるのは、理性では無く、感性ではないかとも思います。何を面白いと感じるかです。何人寝れるか、何が装備されているかは、この場合、あまり重要では無い。何が面白いのかが重要です。

今日一日のセーリングを旅のマナーで過ごしますと、そこには集いと飲み食いにあけくれるかもしれません。でも、セーリングをセーリングのマナーで過ごしますと、そこには穏やかな面からスリリングな面まで、いろんな感じを味わう事になります。そして、それらは乗る度に違ってくる。面白さとは何でしょうか?何を求めているかにかかってきますし、また、ヨットは何年にも渡る長期間の遊び。10年後、20年後に何が積み上がってくるのか?味わいこそが永遠に無くす事の無い財産のようなものではないかと思います。こうでなければならない事は何も無いと思います。しかし、どうでありたいのかが重要ではないかと思います。

最近ではヨットでビールさえ飲むのをはばかられます。それなら、セーリングして遊ぶしか無いじゃないですか?これは良いきっかけでしょう。多くのクルージング派の方々が、セーリングに注意を注ぐようになる。セーリングに集中していくようになれば、そのスタイルも変わろうというものです。
ますますデイセーリングの重要性が増してくるのではないかと思いますが?

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