第五十話 印象派

絵画に印象派というのがあります。モネとかルノワールとかが有名ですが、その前までは、リアリズム、写実主義です。高度な技術で、本物そっくりに描く。でも、それなら写真でも良いではないか?印象派の絵をぐっと近づいてみますと筆の跡が見えるし、雑にも見える。でも、ちょっと離れますと、実に美しい。精緻さよりも、いわゆる印象を描いたのでしょう。詳しい事は解りません。でも、印象、フィーリング、そういうものを大事にしたのだと思います。その先、もっと発展しますと、ピカソのように抽象画とか出てきますが、これなどは、印象派をもっと追及して行ったのか、私には理解できませんが、多分、形にとらわれないで、印象をもっと表現したかったのかもしれません。形では表現できないものを表現しようとしたのか?

さて、ヨットとなりますと、全く別の世界ですが、今まではあまりにも、形にこだわりすぎた感もあります。何ノットのスピード、勝った負けた、どこ行った。それももちろん有なんですが、どんなフィーリングを得たかというのは、これからのセーリングです。言うならば、印象派と同じです。ちょっとこじつけ過ぎでしょうか?

これまでの、セーリング、クルージング、その中にもまた印象派という乗り方ができます。何ノット出たか、どこに行ったかという事も楽しみながら、またどんな感じだったかを重視します。それが印象派?セールをシビアーに操作して、ピタリと合わせるやり方もOKなのですが、そういう精緻さだけに捉われずに、その瞬間瞬間のフィーリングに重きを置く。やる事はこれまでと何ら変わらないものの、意識の置き所が、ヨットの走りだけに重点が置かれるのでは無く、同時に、ヨットの動きと同時に、自分のフィーリングにも置く。その感じを楽しむ。

言うならば、絵画のリアリズムが、精緻なセールトリミングだとすれば、セールフィーリングを大事にするのが印象派。まあ、そんなたいそうな事では無いんですが。精緻なセールトリミングと印象は別ものでは無く、密接に関係しており、ぴたりと来た時の印象もあるわけです。でも、ピタリと来ない時でも、いつでも印象はある。つまり、どんな状況であれ、自分の操作がうまいへたはあれ、どんな時にも自分の印象、フィーリングを楽しむ事はできないか、という事です。ですから、上手い技術を習得するのは、その時のフィーリングを得る為でもあります。

最初は簡単では無いかもしれません。5〜6mの風が吹いて、気持ち良くセーリングをする。でも、微風もあれば、強風もあり、波もある。そうしますと、5〜6mの風の時のようなフィーリングでは有り得ないわけですが、それでも、楽しめないかもしれませんが、遊んで、面白がる事はできる。印象派は、良いと言われるフィーリングのみを遊ぶのでは無く、できるだけ広い範囲のフィーリングを遊ぶところにある。そうしないと、良い時はそんなには無いわけですから。でも、そうで無いフィーリングが良いフィーリングを支えているわけで、良い風は、そうで無い風が無いと、良い風も無くなる。という事で、今回は印象派セーリングについて、こじつけてみました。

現代人は頭を使いすぎるのかもしれません。でも、人間は理屈では割り切れない。でも、頭で考えて理論化した方が楽でもあります。誰が楽なのか?頭脳が楽であります。解らない事を解らないままにしておけないのが人であります。ですから、理論的である事は良しとされ、わからない事は無いものとされる。フィーリングにしても心理学とかで体系化しようとしますし、そういう風にできてるのでしょう。でも、体系化しなくても、感じるのは感じるわけで、21世紀は、その感じの割合をますます高める時代かと思います。心理学的にどうこうでは無く、感じるだけであります。

それで、頭をあまり使わずに、感じる事に専念しますと、以外と頭もスッキリしてきます。何も、良い感じだけがスッキリさせるのでは無く、様々なフィーリングに集中する事が、良い悪いとは別にして、フィーリングに重点を置く事が頭脳をスッキリさせるような気がします。強風で緊張してセーリングしてきた後でも、終わったら、何か心地良い疲れと、スッキリした頭になるような。それは頭脳を使わずに、フィーリングに集中してきたからだと思います。

でも、無風状態はいけませんね、超微風とか。こういう時は暇になって、頭脳が動き出す。ですから、これは印象派にとって最も難しいセーリングなのかもしれません。暇になりますと、余計な事を考えてしまいます。こういう時にでも集中できる人は達人レベルでしょう。

強風に乗るには、それなりの技術も必要ですし、技術に集中するのも必要です。微風時でも技術は必要です。それで、印象派としては、同時に半分くらいフィーリングにも集中する。技術に集中して、次にフィーリング、そしてまた技術の繰り返し。いずれにしろ、集中してます。フィーリングに集中すると、頭脳はスッキリして、明晰にもなるかも?

これもバランスが必要で、頭脳集中とフィーリング集中と、使い分けれれれば最高なのですが。ぼ〜っとしてセーリングするのも良い。何も考えない時があれば良い。考えないのが印象派です。感じるのが印象派。考えるのはリアリズム。交互に使えれば良い。意識してコントロールできれるようになると良いだろうなと思います。これはセーリングの質を上げるし、ヨットライフの質も上げると思うような、気がするような?

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