第七十八話 ヨットの違い

ジャンル別の違いはありますが、根本的にはヨットの強さの違いが大きいのではないかと思います。凪状態なら、どんなヨットでもたいした違いは出てこない。しかし、強風になってきますと、その違いが大きく出てくる。つまりは、ヨットの建造はジャンルをどこに設定するかと、どの程度の強風とか波とかを設定するかによって、違いが出てきて、それが当然ながら価格に反映していくかと思います。

沿岸であれば、時化たら、エンジンでもかけて、どこかに逃げ込む事も考えられますが、外洋になりますと、そうも行きません。ですから、外洋艇は時化を前提にしています。それには、スタビリティーも重要ですが、船体自体の強さも大変重要かと思います。この強さは素材という事もあるでしょうが、多くはその工法にあると思います。船体の厚み、船体を補強する骨にあたりストリンガーをどういう風に製作して、どのように設置するかによって、強度は全く違ってきます。さらに、バルクヘッドの設置の仕方、これらはみんな職人の手をかけなければできない工法です。手間のかかる作業です。結局はこういう所に差が生まれてくるのだと思います。

堅い船体は、乗ってみますと解ります。波に叩かれても何かガチッとした感じ、それだけではありません。充分に堅くて、それでいて軽く造られる船体は、走っていて滑らかさを感じます。この船体の堅さは、何も時化の時だけに有難いわけでは無く、通常のセーリングにおいても、その違いが感じられます。この滑らかさはたまりません。良い気分です。

外洋艇はある程度重めに作ります。軽いヨットにたくさんの荷物を積み込みますと、場合によってはウォーターラインが数センチ沈む事さえありますし、走りが変わってきます。レーサーは堅く、軽く作ります。デイセーラーはセーリングが信条ですから、堅く、軽く作りますが、レーサー程軽いわけではありません。もちろん、一般艇よりは軽いです。

造船所というのは、この船体しか造っていないわけです。あとの艤装はみんな外注が殆どです。ウィンチやマスト、ブロック類、みんな外注です。という事は船体こそが、その造船所の本音の部分です。実際、船体がねじれて、目に見えるわけではありませんが、ハルとデッキの接合部から水漏れをしだすヨットとか、バックステーをいくら引いても、マストが曲がるどころか、船体が曲がるという事もあります。それでも、そういうヨットでも、そのあたりを時化以外で走るなら問題は無いわけです。その場合でも、通常走るフィーリングは堅い船体の方が実に滑らかさを感じます。

それで、結論としては、やっぱり、船体は堅いに越した事は無いという、当たり前の話であります。しかし、それには職人の手間を避けられないという事になります。さらに、船底内部にストリンガーを設置する、それもきちんと積層するという場合でも、一旦乾燥してしまいますと二次接着という事になり接着力は落ちてしまう。乾かないうちに次の積層をしなければなりません。ある造船所は、乾燥しないように特殊なシートを貼り付けて作業をしていたところもありました。これらは見えない箇所なので、何のアピール度もありませんが、時化の時、船齢が古くなった時、その違いがあらわれます。まして、パテ接着などは、すぐにはがれる事が少なくありません。

デザイナーはどんなコンセプトのヨットを造るかデザインをします。しかし、どうやって造るかは造船所による。造船所は、どんなマーケットを想定するかによって、造り方を変える?否、造船所の造り方は決まってます。その決まった作り方が造船所のコンセプトになると思います。

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