第七十七話 強風

程度問題ではありますが、強風は面白さと恐怖の紙一重かもしれません。風が無いとヨットは面白くなりませんが、強すぎると恐怖になります。その強さは人によっても感じ方は違うかもしれませんし、ヨットの能力におうところも多いと思います。

強風でセーリングしていますと、船体は大きく傾きます。それでも、フルセールで傾斜角度20度ぐらいをキープできるなら、そのまま走ります。自分は風上側に居て、舵操作。そこにもっと強い風が入りますと、もっと傾きますから、それが一時的なブローなら、舵で風下側に操作してやれば対応できますが、もし恒常的なら、セールの風を逃がしてやらなければなりません。そういう時、風下側のシート操作をするとしたら、結構大変なわけです。風が弱い時のシート操作は楽ですが、強い時は大変、しかも舵を持っています。

こういう時、メインシートがコクピットにあるなら、すぐに対応ができます。助っ人がもうひとり居るなら対応がし易いのですが、もしシングルならそうはいきません。それでオートパイロットを考えますが、そうなると、オートパイロットのパワーの問題もあるし、舵操作をオートパイロットに任せて、自分はシート操作に回る。セーリングを味わうには、やっぱり舵は自分で持ちたいもの。オートパイロットは、そもそも、ロングに行く時のあまり強風で無い時の一時的に預けるものではないかと思います。

そうしますと、シングル操船を前提に考えますと、やはりメインシートはコクピットにほしい。それに、ジェノアが大きなヨット、メインが小さいヨットでは、メインの風を逃がしてもたいして影響が無かったりしますから、ジェノア操作になります。このジェノア操作がまた、こういう時は簡単では無い。よって、シングルでは、ジブよりメインが大きく、コクピットにメインのトラベラーがある方が良いような気がします。

クルージング艇でも、昔はみんなコクピットにトラベラーを置いていましたが、それがみんなの邪魔になるとして、キャビン天井に追いやり、メインは小さく、大きなジェノアになってきました。それでも、クルーが居る場合は良いのですが、逆にクルー無しでは乗りにくい事にもなります。つまり、クルーが居るか居無いかで、艤装の仕方は違うわけで、強風に乗らないにしても、出てから風が強くなる事もあるわけですから、そうもいきません。クルー無しで乗れない事も無いのでしょうが、でも、制限されてくると思います。

従って、強風までの事を考えますと、シングルで乗る場合は、小さめのジブと大きなメインで、トラベラーがコクピットにあって、舵を持ったまま操作ができる方が良いのではと思います。舵を持ったまま、トラベラーの操作ができて、メインシートの操作ができて、バックステーの操作もできるなら、かなりやり易いはずです。これらは、風上側から操作ができます。

ジブはどうしても風下側ですから、ちょっとやりにくい。舵のすぐ横ぐらいにあれば、まだましですが。つまりは、シングルとクルー有では、全く様相が変わってくるという事になります。現在の多くのクルージング艇では、シングルはやりにくい。それでもシングルで乗る場合は、オートパイロットに強力なモデルを採用した方が良いかと思います。

それに、強風では、ヨットの持つスタビリティーが関係します。スタビリティーがあまり高く無いヨットは、すぐに傾斜角度は20度に達する。高いヨットは我慢強い。ヒールの初期は船体の幅が広い方が我慢強いですが、その後はバラスト重量が効いてきます。でも、あまり風が吹かない時は、多少は傾斜させた方が良いわけで、わざと風下に座ったりします。それで、風が強くなって、もっとヒールしますと、バラストが効果をあらわしてくる。

これらを全て考慮したうえで、設計されたのがデイセーラーです。大きなメインにジブはセルフタッキングにしてしまいました。メインのトラベラーは当然コクピットか後ろ。幅は狭いので初期ヒールはしますが、その先は重いバラストが効果的に働きます。例えば、アレリオン28は操船に殆どウィンチは不要です。舵を持ったまま操作が片手でできます。大きなサイズになりますと、電動ウィンチが標準ですから、これも簡単に操作ができる。

セーリングをもっと簡単にできて、それでいて質の高いセーリングができて、セーリングをもっと楽しみたいという気持ちから出てきた設計です。レーシングヨットに乗る人には簡単過ぎるかもしれません。しかし、我々、クルージング派が、もっとセーリングを堪能したいと思った時、そういうクルーも居なければ、難しい事もしたくない。気楽に、質の高いセーリングを味わえるヨットとして、世界で広がりを見せている。やっぱり、ヨットはセーリングが一番面白いと思います。

ヨットは強風を含めたセーリングになります。避けても避けれない事があります。軽風ばかりなら、ヨットはなんでも構わないかもしれませんが、強風となりますと、いろいろ違ってきます。そこがヨットの違いではないでしょうか?

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