第二十九話 ストップ、セーリング離れ

クルー確保に困らない時代ならいざ知らず、今日ではクルー無しでいかにセーリングするかという事になります。ところが、実際のクルージング艇を見ますと、クルー無しで、オートパイロットを使えば可能ではありますが、セーリングを楽しむという次元においては、セーリングがしにくくなっている。
セーリング操作自体は簡単でなければなりません、難しいのは、どの程度調整したら良いのかであって、この部分が面白さを演出しますが、操作自体は簡単でなければならない。クルー不足の時代ですから。それに、我々は毎日、毎日セーリングに出て練習するわけではありません。多い人でも週に1回とかでしょう。そこにもってきて、操作が面倒とか難しいとかなりますと、プロになろうと修行するわけでは無いわけで、遊びたいわけですから、面倒くさい操作が多くなりますと、誰もやらなくなるのは当たり前の話になります。おまけに、そこまでしなくてもセーリングが出来ないわけではありません。動かす事はできるのですから。ならば、それ以上面倒な事するより、どっかに行って楽しんだ方が良いと考えるのは当然でしょう。

オートパイロットをかけて、前に行き、セールを上げる。ジェノアを開く。これでセーリングが可能です。でも、多くのクルージングヨットでは、メインシートを出仕入れの時は、前に行き、ジェノアを出し入れの時も前に行く。舵に戻っては前に行きの繰り返し、面倒ですので、オートパイロットに任せるようになります。メインシートのリードはブーム中央ですので、非常に大きな力が必要で、ウィンチ無しでは引けない。ジェノアはセールが大きいので、これもウィンチを使う。こういう事を考えてみますと、どうしてもスムースに行うにはクルーがほしい。しかも息のあったクルーがほしい。

クルージング艇が何年もかけて進化してきましたが、結果、セーリング離れに拍車をかける事になっているのではないか?セーリングがしやすいというより、最も時間をみんなで過ごすコクピットを重視し、ここは広く、それも何も邪魔物は設置しないように、それよりテーブルでもあった方が良いというクルージング的考え方です。これによって、確かにコクピットでの集いは楽しくなる。テーブルを置くならティラーよりも、ラットが良いとなる。でも、そのラットのせいで、メインシートにはもっと届かなくなってしまった。人間、面倒な事は嫌ですから、そのうち、まあ良いかこのままで、面倒くさいしとなります。ですから、余程の事が無い限りは動かさない。まあ、どこかに行く時はエンジン使うわけで、セールはそれ程重要とは考えない。でも、人が望んだからそうなったのか、ヨットがそういう姿勢で来たから、人がそう考えるようになったのか?コクピットに何も無ければ、ドジャーが設置できて、ビミニトップも設置できる。一見良い事ばかりに見えますが、ますますセーリングからは離れていきます。それで良い人も居るし、どうも何か物足りなさを感じる方もおられると思います。

本来、ヨットにおけるセーリングとは最もエキゾチックで、最も魅力のある素材かと思います。それが、昨今のクルー不足をも反映して、難しかったり、面倒だったりしますと、だんだんそこから離れていきます。それで、せっかくのセーリングという別世界を味わうチャンスを逃してしまうことになります。ですから、再び、セーリングに戻ろうという事を考えますが、でもクルー不足という現実は変えられない。という事はシングルで、せいぜい二人で、自由自在にセーリングが出来る、面倒くさくないヨットが望まれる。結局、それがデイセーラーなのだろうと思います。操作が簡単なら、誰もほっときはしません。ちょいと操作したくなる。操作をして何らかの変化が感じられると、楽しくなるし、こうしたらどうなるんだとも考えるようになる。楽に操船できる事が必須なのです。

セールは主機で、エンジンは補機とされるのが、クルージング艇では、これが逆転してエンジンが主機で、セールは補機という感じがします。エンジンも昔よりパワーのある設定が多くなってきましたし、操作もシングルレバーで、非常に容易になってきています。これらに反するようにデイセーラーが出てきたのは、必然の事かもしれません。レーサーじゃ無いが、もっとセーリングを楽しみたいという方、それにクルー不足の時代に相応しいと思います。

こういう風に、一部ではありますが、クルージングの方々が再びセーリングに戻ってこられるのは嬉しい限りです。そして、殆どの方々の使い方としては、デイセーラーで充分に対応ができるし、おまけにセーリングも楽となりますと、これからのデイセーラーの意義は大きくなると思うのは、私だけでしょうか?

さて、ご参考までに、今年の夏納めたアレリオンですが、オーナーは全く未経験の方でしたが、あれからまだ2ヶ月未満ですが、もう前からにシングルで乗られています。セーリングを味わっておられます。面白くてたまらないというコメントも頂きました。セーリングをすれば、それも楽に動かせるから、そういうコメントが出てくるのだと思います。誰でも簡単にすぐ動かせる。それでいながら、セーリングの奥深さも味わっていける。デイセーラーの出現は、クルージングの方々に、再びセーリングを味わいませんかというお誘いです。ストップ、セーリング離れ、というわけです。

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