第一話 余暇の余暇

セーリングは余暇に行うものです。いくら自分の面白さを追及するんだと言っても、余暇に行うものです。すごい形相して行うものでは無く、遊びであり、面白さであります。それで、たまには、自分の事はさておいて、誰か友人に、家族にも、このヨットの楽しさを味合わせてあげたいと思います。それは何も、ヨットでのご馳走であったりする必要は無く、一番のご馳走はやはりセーリングにあると思います。ご馳走そのものはヨットで無くても、どこにでもありますが、セーリングはセーリングにしか無いので、最高のご馳走はセーリングにあると思います。

ただ、コクピットに座ってじっとしていて、会話に花を咲かせ、時折感じる風に爽快さを感じる。確かにその通りかと思いますが、それもそういつまでも続かない。最も良い方法は、全くはじめてヨットに乗る人に舵を持たせる事かと思います。交替で順にもってもらうと良いと思いますが、人数が多い場合は、人によっては消極的な人もおられますのが、できれば、経験者では面白く無いので、全く初めて、子供や女性なら尚良いと思います。

難しそうに見えるヨット、それを全く初めての方が舵を握る。乗り合わせた他の人も自然に興味が湧いてくる。これは余暇に乗る人の、さらに余暇的な部分です。これも楽しい。舵を握らせて、真っ直ぐ走ってもらう。ところが、そう簡単には真っ直ぐ走れない。でも、少しづつできるようになる。そこが楽しさです。それをみんなで分かち合う事ができます。舵を握るのが最も手っ取り早い楽しさを味わう方法かと思います。自分で全部やって、ゲストはみんなコクピットに座って、おしゃべりしたり、飲み食いしたりでは、ゲストには今一面白さが伝わらないので、操船に参加してもらうのが一番です。乗せてもらうという感覚より、自分で乗ったという感覚を持ってもらう。

ヨット遊びの面白さはいろいろあるでしょうが、その一番はセーリング操作に参加する事かと思います。仲間が集まる、会話、ご馳走、海、風、太陽、そういうものもありますが、一番は何をさておいても、自分が操船者の一部になる事かと思います。それも解ってやるという事です。ただ解らないのに、言われたままやるのでは、面白さも解らない。ウィンチをちょっと巻いてと言われるががまま巻いても、その意味が解らないと面白さが伝わらないのではないか?初めて乗る人にそこまで理解させる事はできません。それで、舵はもっとも解り易いわけです。どうしたら、ヨットがどっちに向くか、すぐに解ります。舵の意味は即座に誰でも理解できる。ですから、舵を持つと面白いわけです。これまでの経験から言いますと、子供はもちろんですが、女性も舵を握るとみんな楽しそうです。緊張もしながら、オーナーがサポートしてくれますから安心です。

そういう事をやって、楽しさを感じて頂けると、きっとオーナーとしても楽しいと思います。それが余暇の余暇です。ご馳走なんて、帰ってきてから、エアコンの効いたところで、みんなでヨット談義をしながら食べても良いわけです。セーリング中はおにぎりでも良いし、飲み物だけでも良いわけです。セーリング中にご馳走食べようとしますと、セーリングが疎かになります。疎かになりますとセーリングの面白さが伝わらない。ですから、セーリング中はデイセーリングの事ですが、ペットボルト1本持って、順番に舵を持つ。食事は、帰ってきてからゆっくりやりましょう。

通常の話題はきっと、仕事の事、経済、社会、特に健康の話なんかが多い。そんな話は面白く無いわけです。気分が良くなるわけが無い。不景気だ、変な犯罪が最近は多い、そんな一般的なマイナスの話では面白いはずが無い。そんな話をみんなで集まって、ヨットでやりたいわけじゃない。でも、楽しいセーリングをみんなが味わうと、セーリングの話題が増えてくる。そうでないと、話題がないから仕方なしにするわけです。

余暇には自分の面白さを求め、余暇の余暇には、他の人達にもセーリングの楽しさを味わってもらう。そういう事も必要かと思います。それも結構楽しいもんです。全部自分で楽しさを独り占めしてはいけませんね。分かつ事も楽しいもんです。ゲストを招待して、喜んでもらえると、実に楽しい。
ですから、余暇の余暇も必要なのです。もちろん、そこには自分の余暇に何をしているかも重要になります。自分の余暇が充実していればいる程、楽しさも分かつ事ができる。或いは逆に、時折分かつ事で、自分の余暇を充実させるエネルギーを生み出す事もあると思います。

余暇と言っても、本当にセーリングを遊ぶとなると、緊張感、集中力、そういう事が必要かと思いますし、面白さはそういう時があってこそ味わえると思います。しかし、そこにまた余暇の余暇を加えて、たまには、のんびりも良い。メリハリのある遊び方、それに周りの方々にも味わって頂ける。別の種類の喜びもあると思います。どうせやるなら、ひとつの喜びでは無く、いろんな喜びがあって良いと思います。何年も何年もやるヨットですから、いろんな事を試す。でも、本来の緊張感を携えたセーリングというのも忘れないでいただきたいと思います。

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