第三十七話 セールフィーリング

セーリングというのは、そのフィーリングを遊ぶ行為であります。ですから、捉えどころが無い。ゲームのように点数が加算されるとか、釣りのように魚が釣れるとか、目で見て解る何らかの成果があれば、非常に解り易いのですが、それがフィーリングとか言われますと、何がなんだか解らない。
スピード計をつけて、スピードをその成果とする事もできますが、風の状況によってそのスピードも変わるわけで、自分が頑張ったらから、うまくなって、昨日よりも速く走れるなんて事も無い。風が弱ければ、どんなにうまくなっても、風が強い時より遅いわけであります。この曖昧さが、何ともセーリングを難しいものに押し上げてしまう。解りにくいものにしてしまう。

セーリングはその時の風で、どれだけできるかを遊ぶ。スピードを遊ぶし、動きを遊ぶ。そして何よりフィーリングを遊ぶ事になります。フィーリングとは曖昧なものですが、一旦その感覚を味わうと、その心地良さ、スリル、物や動きでは無い、感覚に何とも言えないフィーリングを得る事ができる。のんびり過ごすのもセーリングのひとつではありますが、ある緊張感の中で、気持ちが自然に集中していて、そういう時に滑らかにセーリングをする時、一種のハイな気分になる事がある。それがセーリングの面白さのひとつではないかと思います。レースの人は他艇よりも先んずる事に集中します。クルージングの人は、旅のプロセスや目的地に集中する。考えてみたら、セーリングのこういう感覚に集中する人は少ないかもしれません。でも、これがデイセーリングの醍醐味ではないかと思います。

レスポンスの良い、軽いタッチの舵を握りる時、そのわずかな操作で、動きが微妙に変わる。風がわずかに上がった時にでも感じる加速感、レスポンスの良いヨットで走る時の感覚は、自然と気持ちを集中させるし、それがまた心地良い。バックステーを引いて変化するセール形状、そういうヨットのひとつひとつの変化が、感じられる時、何とも言い表せない感覚を味わう事ができる。そういう最高のセーリングを何度も味わいたいと願いつつ、ああでも無い、こうでも無いと試行錯誤を繰り返しながら、舵を握る。何とも至福の時であります。

そういう感覚遊びをしていますと、感覚が鋭くなる。波のザワザワする音や、風に当たる感じが、少しの変化でも感じ取る事が自然にできるようになる。そんなセーリングを有難いと思います。それで、もっとうまくなりたいと思います。うまく行かない時、何故かと考えます。そのヨットには、そのヨット特有の走らせ方というのがあり、それがこのヨットの得意技でありますから、それはどんなか味わいたいと思う。バランスの良いヨット、レスポンスの良いヨット、それでいて、よりパワフルなセールを支えてくれる船体の強さやスタビリティーの高いヨットは、より楽ににそういう感覚遊びができる。
そういうヨットを自由自在に操れるようになったら、実に面白いだろうなと思います。

楽である事は良い事です。その楽になった分、より操作が容易にできて、より感覚を遊ぶ事ができる。どの部分を楽ににして、どの部分はそのままで、といろいろ人によって異なるかもしれませんが、セールフィーリングを大事にして走る事が大切ではないかと思います。セールを上げた途端に、自分の気持ちがスイッチオンになる。どうぞ、楽しいセーリングを味わってください。これはりっぱなスポーツであります。

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