第三話 ボートいろいろ

ボートと言いましてもいろんな種類があります。かつてはパワーボートも取り扱っておりましたが、その後ヨット一本にしてきた経緯があります。船底形状にデッドライズというのがあり、昔々、バートラムという有名なボートがあり、今でもありますが、そのボートがいわゆるディープV船型を発表し、その波に対する強さが証明されました。波に強い船型、波当たりが柔らかい。しかしながら、ディープVに船型にしますと、同じスピードを得るのに、より大きなパワーが必要とされます。それで大きなエンジンが求められる。という事はその分コストもかかるという事になります。

また、ディープVは船底が鋭角ですので、キャビンが狭くなるなどの影響が出てきます。それで、造船所によっては、モディファイドディープVなんかと称し、少し角度を和らげ、キャビンを稼いだりします。デザイナーの設計を造船所が購入し、そのデザインを少し変更するぐらいの事はやるわけです。

ある有名なデザイナーがデザインしたボートが、ある有名な造船所で造られる。このデザイナーによりますと、俺のデザインを変更していると言ってました。それで、このデザイナーは本物のボートを作りたいと思い、これが理想のデザインだと見せてくれた事があります。38フィートのフィッシャーマン(カジキ釣りなんかに使う)。キャビンは狭く、非常に低い重心でした。このボートに600馬力のエンジンを2基搭載。もちろんディープV船型でした。幸いと言いますか、この設計を気に入られた方がおられ、建造する事になり、日本に納めましたが、まあ、600馬力のエンジンの2基ですから、どんなに防音しても、確かに音はうるさい。しかし、走りは最高だったですね。高い波にも30ノットで突っ走り、波当たりはソフト。兎に角濡れないドライなデッキでした。こんなに違うのか、という感じです。このボートが最後で、これ以降はボートを取り扱っておりません。

以前、ボートは何かする事、例えば釣りなんかの目的が無いと使い切れないと考えていました。日本人はキャンビンで遊ぶのが下手といいますか、合わない。何かをしたがる国民性かもしれません。何もせずにのんびりとキャビンで過ごすのが苦手なのではないか?それで、釣りでもしない限り、ボートは合わないのでは?と思ってきました。実際、マリーナには動かないボートが多い。動くのは釣りボートです。

走ると波にドンドンと叩いて、疲れてしょうがない。かと言ってトローラーは足が遅いし、せめていざという時は20ノットぐらいはでてほしい。それで、一時期はトローラーの大きなエンジンを搭載してというボートもありましたが、うまく行ったとは思えない。元々、そういうボートでは無い。それに上部の構造物がでかいので、ゆらゆら。なかんか難しいもんです。

走る物は重心が低いに越した事は無い。音は静かな方が良い。ボートなら波叩きが柔らかいのが疲れない。ならば、ディープV船型で、エンジンは小さめで、防音対策をしっかりやって、高速スピードさえ諦めれば、それは可能ではないか。

一方、ヨットの沿岸の旅はエンジンで行くのが殆どです。セーリング性能は無関係で、エンジンがやや大きめぐらいで、計算通りに目的地に到着したい。それでも、5ノット平均、6ノット、大きなヨットなら7ノット、8ノットが期待できる。でも、その程度。雨に濡れたりする、寒いのを避ける、そういう為にパイロットハウスなども人気があるようです。でも、滑走しないヨット、重いキールをぶら下げたヨットで、10ノットも無理な話です。目的地の途中に海峡があって、干満の影響で潮の流れが速いなどの時はそれに合わせて出るか、潮待ちしなければならない。場合によっては避けたい夜の航行になる。そういう事も気軽に出れない理由のひとつになります。

スピードが15,6ノット出れば、そんな潮は関係ない。ヨットで無理ならボートはどうか?旅を気軽に満喫するには、かえってボートの方が良いかもしれない。極力騒音を抑え、ディープV船型で、低い重心のボート?いざという時は20ノットオーバーのスピードも可能なボート。

ヨットの旅はまたボートの旅とは違うかもしれません。それはそれで結構ですが、もっと気軽に旅を楽しみたいという方、旅のエッセンスを楽しみたい方、そういう方々にはもってこいの選択ではないかと考えています。こうする事によって逃すヨットの良さもあるでしょう。しかし、割り切って旅を満喫するのもひとつの方法かと思います。ある事が他より優れているという事は無い。ただ目的とする事に最も気軽に対応できる方法は何か?また、そう割り切れるか?それだけの事かと思います。
ヨットで10時間かかる目的地に、3分の1の時間で行けるとしたら。途中の潮も関係ないとしたら、遊び方も違ってくる。旅をそう割り切れないか?

鈍行で行く列車の旅にも良さがあります。プロセスを楽しみながら、行く旅も大いに有です。でも、新幹線で行く旅も有。早く到着すれば、それだけ時間も取れる。でも、速いだけでは、10分、20分の事ではありませんので、少なくとも2時間、3時間は乗ってるわけですから、乗り心地なども重要なわけです。そんなこんなで、セーリングならデイセーラー、旅ならヨットマンズボートという割り切り方をしたら、もっと、気楽になれるのでは?

割り切るという事は、そこのスポットに集中する事です。そうしますと、何でも来いとは行きませんが、そのスポットに限っては、他のどの艇よりも優れている事になります。それがこの艇の特徴になる。それで、他の事ができないわけじゃない。ただ、得意は別なところというだけです。デイセーラーで旅が出来ないわけじゃない。でも、キャビンからして、それ向きとして造ったわけではありませんので多少の窮屈感は仕方ない。ヨットマンズボートが最も不得意と言いますか、できないのが高速走行であります。でも、この場合はそれをわざと避けている。高速走行の弊害を避ける為です。でも、それさえ不要と思えるのなら、旅にはもってこいではないかと考える今日この頃なのであります。温水があって、冷蔵庫があって、エアコンなんかが効いてたら、最高ですよね。1基がけのエンジンで、メインテナンスをするスペースも充分にあり、防音がしっかり静かで、その代わりバウスラスターが付いている。それに行った先々での足となる自転車やテンダーのゴムボートや他の遊び道具なんか積んで走るには、ヨットよりはボートの方が良い。

但し、旅もするけど、セーリングもするという方にはお奨めできません。それに外洋のロングを走る、陸に寄らない方にも無理。燃料が持たない。でも、満タン300マイル走れるとなると、これはもうかなりの所へ行けますね。福岡から東京まで600マイルですから、この距離を1回の給油でいける事になります。まあ、もっとのんびり行った方が旅ですから良いですが。

 

 

ヨットもボートも割り切り方によっては、かなり面白いマリンライフがおくれそうです。

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