第二十九話 バランス遊び

セーリングはいかにバランスを取るかという遊びかと思います。風が弱い時は、ドラフトを深くして、できるだけパワーを取り込もうとします。セールを流れる風はゆっくりですが、風が強くなると、流れが速くなりますから、パワーも大きくなる。大きすぎるパワーは減じなければならない。結局は、いろんな操作がありますが、この風のパワーをどれだけの量取り入れ、逃がすかによって、船体とのバランスを取る事になります。

船体が持つ性能にピッタリ合う、風とのバランスが、うまく取れれば、そのヨットの最高の走りをする事になります。これがとても心地よさにつながっていきます。この心地良い感じを求めて、いろいろ試行錯誤を繰り返す。この試行錯誤があるからこそ、またバランスが取れた時には、心地良さが増幅されていく。他人のヨットに乗せてもらって、自分は何もしないで良い走りをするより、自分でやって同じ結果を得た方が、面白さはもっと上昇する。

それで、最高の走り、心地良さを求めて、いろいろ体験を繰り返しながら、ヨットの各艤装を学び、試していく過程が必要になります。しかしながら、その結果だけが面白く、試行錯誤自体が面白く無いとしたら、長く続ける事はできません。それで、その試行錯誤をいかに面白くするかがポイントになると思います。

それは解る事と感じる事によってなされると思います。ひとつ覚え、知識を得る。これが解る事です。そしてそれを実際に試し、その変化を感じ取る。最初から微妙な変化を感じとる事はできませんので、微妙では無く、大きく変化する事から感じ取る。ヒールしていた船体がスーっと起き上がったりです。そして、どんどん乗り込む事によって、微妙な違いも解るようになる。そりゃそうです。いつも同じヨットに乗っていれば、自然と体が感じています。これらは、進化であります。人は進化する事に喜びを感じるDNAが埋め込まれていますから、進化しなければ面白く無い。逆に進化していれば、面白いわけです。

それで、セーリングやるなら、この進化を求める、意識しておく。知識とフィーリングの進化であります。すると試行錯誤が面白くなり、その結果、いつか最適なバランスが取れるようになって、最高のフィーリングを味わう事ができるようになる。一旦、そうなると、また味わいたくなります。ところが、風も波もいつも違うわけですから、いろんな状態での最高のバランスがあります。これが奥の深いところ、という事はいくつもの最高のバランスと走りがあり、面白い試行錯誤があり、一生かかっても全部は味わえない。でも、より多く遊ぶ事ができます。完結してしまったら、それで終わりですから、完結しないようになってる。あらゆるスポーツと同じであります。

そういう意識を持ちますと、ああ、今日は良いセーリングだったとか思う事がある。この満足感はやった人にしか解らない。この満足感は何も最高のバランスを得た時ばかりでは無く、自分のヨットをあらゆる場面で、理解した時にも訪れる。なかなか良い上り角度だとか、スタビリティーが高いとか、波に柔らかいとか、ハルが強いとか、自分の腕が上がったとか、微妙な変化に気付いたとか、いろんな場面にも訪れると思います。ですから、気をつけてさえ居れば、セーリングはいろんな場面で面白さを感じる事ができると思います。

セーリング遊びをするなら、是非、この面白さを得て頂きたいと思います。何となくセーリングするという事もできますが、面白さを促進する為には、進化を意識しておくと、もっと良いのではと思います。一旦、その面白さに出会えば、ヨットに対する見方も変わるでしょうし、乗り方も変わる。かといって、それ以外の乗り方をする時にも、結構楽しめるようになると思います。誰かを招待した時の
セーリングでも、全く違うと思います。ピクニックしている時でも違うと思います。余裕が感じられるようになると思います。本当にセーリングを余裕をもって感じる事ができるようになる。余裕があるから、もっと感じる事ができる。余裕で遊ぶ事ができる。

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