第九十三話 こだわり

ヨットというのはまだまだ一般的な乗り物では無いだけに、ある種のこだわりなんかが強く出てくる場合があります。私自身も、あれこれ検討して、これだというのが出てきて、そうすると細部にまでこだわったりします。こだわり過ぎという事も言われますが、それでも、何でも良いとは行きません。ヨットというのは趣味性が強いので、恐らく多くの方々が、何らかのこだわりをお持ちでしょし、それで楽しむのも良いと思っています。それで我々業者としては、オーナーのこだわりにできるだけ応えていく。

造船所は、同じプロダクション艇を建造する場合でも、造船所によっては、オーナーの要求にできるだけ応えようとする造船所と、決まった物しか一切受け付けない造船所とあります。まあ、プロダクションの規模とかによっては、いちいち変更するのは大変です。一個人のオーナーにとっては簡単な事でも、それを実行する造船所は、いろいろ調べたりも必要だし、簡単な事ではありません。

かといって、オーナーの希望を全て丸ごと受け入れる造船所も考え物です。その艤装が良いのか、悪いのか一切判断せずに要求通りやる造船所もあります。売った後の事は知ったこっちゃ無いという感じです。良心的な造船所ならば、向こう側からアドバイスがある。そういう造船所のヨットは物が良い。彼らが、要求通りにしないのは、自分達の品質や評判を落とさないようにする為です。ですから、そぐわない事は、NO、と言います。それより、こうした方が良いとか言います。

こだわりというのは、何もオーナーだけでは無く、造船所もこだわっている。そして我々業者だってこだわります。その中で受け入れて頂いたオーナーに対しては、今度はオーナーのこだわりに対してできるだけ応える。みんな、何でも良いとは思っていない。造る側も、売る側も、買う側も何らかのこだわりを持っています。ただ、これまで知らなかった事に対しては、オープンな気持ちは必要でしょう。なるほど、こういうのもあったか、なんて事が時々あります。こだわるのも良し、でもオープンマインドで。

考えてみたら、何でも受け入れる態度というのは、余程の達人か、もうヨットに価値を見出していないかでしょう。弘法、筆を選ばずとか言いますが、そんな達人は居ません。違いが解れば、解る程、自分の価値観にこだわる。それで良いと思います。そうやってこだわりながら、何年も過ごし、場合によっては、その過去のこだわりが何でも無くなる時もあります。それはそれでも良い。自分が変われば、好みも変わる。常に同じ場所に居る必要も無い。

こだわり過ぎると、プロダクション艇では対応できないかもしれません。セミカスタムとか完全なカスタムとかになってきます。でも、そうすると支払いも一気に上昇していきます。造る側、ちょっとした変更に対して、いろんな箇所を変えなければならない場合もあります。でも、まあ、プロダクション艇の中でも、ある程度は対応してくれる造船所はいろいろありますよ。そんな面倒くさい仕事を引き受けようとする造船所はだいたい良い物造ってます。

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