第六十三話 クルージング艇のデータ

前話で数値の話をしましたが、クルージング艇にとってはあまり関係無いと思われるかもしれません。それが例えば、エンジンだけで殆どどこかに行くというのなら、それもそうかもしれません。エンジンの馬力とかメーカーなどを気にすれば良いかもしれません。しかし、少しでもセーリングを楽しもうという場合には、それらがどの程度の作用をするかは解らないにしても、他のヨットとの比較はできるので、多少は役に立つのではないかと思います。

セーリングを主体にしないのであれば、大きさと装備品と価格ぐらいでしょうか、でも、セーリングを味わうという意味では、少しでも理解を深めた方が良いと思います。もちろん、乗り心地とかは解りませんが、できるだけ理解したうえで、購入されると納得がいく。

クルージング艇でも、セーリングを味わう事をお奨めしていますので、できるだけのデータは入手した方が良いと思います。クルージングとセーリングの割合をどれだけに考えるかによって、選択は違ってくると思いますが、基本はクルージング艇なので、楽に操作できる事でしょうから、その上で、どれぐらいのスタビリティーがあるか、どれぐらいのセールエリアがあるか、操作性はどうか、気になるところです。

あるデータでは、水線からマストトップまでの長さの記載がありました。Aというヨットは16.70m、Bというヨットは16.66mですから、ほぼ同じです。このふたつのヨットのメインセールのラフの長さ、Pですが、Aが13.25m、Bは13.87mです。同じマストの高さ(水線から)なのに、ラフの長さが違う。これを差し引きますと、Aは3.45m、Bは2.79mです。つまり、Aのブームの位置は、水線から3.45mの位置にあり、Bは2.79mの位置にある。

AとBの差は66cmです。水線から、ブームまでの高さの差です。これが船体の高さの差になっていると考えても良いと思います。それだけAはフリーボードも高いし、キャビン天井も高い。という事はそれだけボリュームがあり、船内の天井は高いでしょう。という事は重心も高い。Aにはバラスト重量の記載が無いので解りませんが、だいたいバラスト重量は低いのが最近の傾向です。AとBのセールエリアは殆ど同じです。ここから想像していく事ができます。

昔は排水量からバラスト重量を引きますと、船体の重量が解る。同じ材料を使って、同じ工法なら、それで船体の想像ができる。ほぼ同じようなヨットならですが。これで片方が軽いなら、何故か?
船体のFRP積層のせいか?とも考えます。ただ、最近はいろんな工法があり、それも一概には言えない。船体のボリュームの違いもあります。サンドイッチ構造になっていたり、工法そのものが違っていたりです。

それで、最後は、造船所のコンセプトを知るという事で、だいたいは解る。希望のモデルを細かく見るという前に、造船所のコンセプトを良く知って、絞り込む事になろうかと思います。実は、前述のAとBのヨットのコンセプトは全く違うものです。ですから、これだけの差が出たのかもしれません。でも、コンセプトが違うとこんなに違うという事を知って頂きたかったのです。コンセプトと価格を調べれば、だいたいの事は解る。という事は細かな数値は不要という事になりますね。失礼しました。

それで、後は、装備と使い勝手ですが、それらもコンセプトに見合う仕様になっているはずですから、細かな個々のケースの事情の違いによる使い勝手の差という事で、まあ、コンセプトさえちゃんと掴んでいればそう大きく違う事は無い。価格が同じようなものならですが。という事は次に来るのは見た目のデザインとか、気に入るかいらないかになります。

キャビンヨットも、外洋艇も、デイセーラーもスポーツもレーサーも、そのコンセプトに従って、建造されていますし、品質に従って価格がつけられる。従って、コンセプトの絞込みと、価格と、デザイン、これらが選択の素材という事になるような?

品質は見た目では解らないかもしれません。装備品の違いなら解る。品質は見えないところにあり、それが価格に反映します。それは素材かもしれないし、工法かもしれない。でも、この見えない品質は、新艇の時は解らなくとも、これから先何十年の間に差を生み出す。見える部分は取替える事もできる。見えない部分は取替えがきかない事が多い。それが造船所のコンセプトかと思います。そのヨットがどんな風に使われる事を想定しているか。

ヨーロッパでCE規格というのがありますが、AがオーシャンとかBが沿岸とか、どんな規格でそう設定されているか良く解りませんが、どうも信用ならないような気がします。信用ならないと書くと語弊がありますが、何でこれがAで、こっちがBなの?これはまた別な何かの要素があるような?やはり、コンセプトと価格と見た目のデザイン。選択要素はこれかな?

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