第九十五話 ヨット VS. ボート

ヨットに比べて、ボートは20倍ぐらいあります。その圧倒的な差はどこにあるのか?単純に言えば、ボートは簡単そうだし、ヨットは難しそう。忙しい身だし、ヨットなんかにのんびり乗っていられない?傾いて走るなんてとんでもない。何となく、ボートの方が実用的に見えるかもしれません。ひょっとしたら、ボートは自動車、ヨットはバイクの感覚に似ているかもしれません。

圧倒的に多いボートオーナー、釣り目的以外にしても、彼らは日本一周するとか、多分考えていないでしょう。自動車感覚に近いかもしれません。それこそキャンピングカー的遊び方です。キャビンで遊ぶ、ちょっとどこかに走って行って、すぐに目的地に着く。そこで目的を果たして、すぐに帰れる。つまり、そういう遊び方にはヨットよりボートの方が便利です。クルージングにはボートの方が簡単操作で、すぐに到着して、機能的にヨットより優れている。

ところが、私を含めてそうですが、ボートのドシン、ドシンと波に叩く衝撃と、うるさいエンジン音が好きになれない。そういう方々はヨットを志向する。ヨットで同じ事ができる。ただ、ちょっと時間がかかる。その代わり、時間さえあれば、日本一周だって可能です。

どっちにしても、キャビン志向と旅志向。ヨットかボートかは別にしても、どちらも志向は同じかもしれません。多分、距離の短い、長いの差はあれ、日本人は旅志向なのかもしれません。そこに時間という要素が加わると、ボートに軍配が上がるのは仕方が無い。

ボートには釣りという強烈に面白い要素があり、それが故にボート志向になる人は多い。彼らは、釣りが目的であって、ボートは手段に過ぎない。ボート全体に占める割合がどの程度かは解りませんが、かなりの割合である事でしょう。一方、ヨットにはレースというのがある。ヨット普及の要素としてレースというのはスポーツとして、とっても重要なのですが、いかんせん、そう簡単では無い。
レースは主催者が必要で、誰かが企画してくれないといけない。いつでも思った時にやれるものでも無いし、それにレーティングがどうこうとか、ファーストフィニッシュが優勝とは限らないとか、ややこしい。それに腕の差どころか、投資金額の差という要素も大きい。従って、ボートの釣りに対抗できる程、レースは盛んにはならない。

ヨーロッパでは昔のIORのレーサーをまた復活させて楽しんでいたり、表舞台に出てくるレーサーばかりでは無く、数々のレースが行われています。多くはワンデザインのレース。と言っても、純クルージング艇であったりもするわけです。あの手、この手でレースやって、業界が盛り上がっています。ワンデザインがレーティング無しで、ファーストフィニッシュが優勝という明快なレースですから解り易い。こんなレースをしょっちゅうやってるとしたら、日常はのんびりでも、レースに出たらはりきる。そういうメリハリもある。そうするとキャビンも活きる。

ところが、日本ではどうもそれがやれない。同じモデルが同じ地域に少ないという事もあって、ワンデザインレースとはいきません。モデルが各種混ざると、どうしてもレーティングという事になります。何か、ボートの釣りのように、強烈に面白い何かが必要です。

それを取りあえず、セーリングそのものに求めたらどうか、というのが私の提案です。釣り程明確な強烈な感覚はありません。獲物も無い。しかし、求めれば、本当は強烈に面白い。釣り人は魚を釣る為に、魚の特性を研究して、それに合わせて、仕掛けも工夫する。それは天候の条件によっても変えてくる。それが当たり前、それをしていかないと釣果は得られない。それと同じで、セーリングにおいても、研究と工夫が必要です。釣り人は研究と工夫を楽しんでやる。セーリング人も、それを楽しんでやる必要があります。ところが、決定的に違うのは、釣り人はその結果を想像する事ができます。あのしびれるような興奮を想像する事ができる。でも、セーリングの研究と工夫で得られるものとは何か?これが想像できるなら、多分、セーリングはもっともっと流行るのではと思うのですが。数値としてスピードが出るくらいの想像はできますが、その時の感情までは、興奮までは想像できません。それには、経験してみるしか無い。釣り人はみんな経験済み。でも、セーリング人は未経験が多いのかもしれません。これが決定的な違い。

それで卵か鶏かの話になりますが、経験すれば想像できる。想像できるからセーリングができる。でも、想像するには経験が必要、どっちが先か?釣りは陸で経験できる。ボートに乗る前から解っている。でも、ヨットは陸では経験できない。この差が今のボート対ヨットの差かもしれません。
ヨットの本当の面白さはセーリングにある。研究して工夫して、結果のセーリングの繰り返しの中にある。この面白さが体験できると、もっと想像する事ができますから、研究も工夫も一層楽しくなるし、もっとセーリングしたいと思うようになる。もっとセーリング人が増えますように!

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