第八十九話 波に叩く

高い波の時、走っていればどんなヨットでも波に叩きますね。でも、ヨットによって全くその状態は違ってきます。例えば、船底の前部がフラットな場合、波にバシンと激しく叩きます。船底がフラットなので当たり前なのですが、その時、大量の波飛沫が高く上がり、それが風のせいでコクピットまで飛んでくる。頑丈で無いヨットは心配になる程です。

一方、前部が鋭い鋭角をしていますと、叩くのは叩いても、非常に柔らかい。それで、叩いた感じがしません。波飛沫もあまり上がらないので、コクピットまで飛んでくる事は少ない。しかしながら、前部が鋭角ですと浮力が少なくなり、波に突っ込む場合もある。これは危険です。

良いヨットというのは、何故か、波に対して柔らかいし、波飛沫もあまり上がらない、おまけに頑丈に出来ていて、それでもあまり重量が重くならない。また、波にバウが突っ込む事も無い。多分、船型と重量バランスの問題かと思います。

良く出来た外洋艇なんかは、こういう性能に優れています。残念ながら、キャビンヨットはバウからすぐに膨らんで、船底がフラットになっているのが多く、浮力はあるものの波に叩いて、デッキ上に
波が襲う。しかもそれ程頑丈にはできていない。しかしながら、元々時化の中を長時間乗るわけでは無いし、そこまでは必要無いのかもしれません。それよりキャビンが広いというメリットがあるわけです。

長時間、波に叩かれると本当に辛いものがあります。ですから、外洋艇はそういう性能に優れている。ですから価格が高いのも頷けるかと思います。これはちょっと試乗しても解らないし、時化の中で乗らなきゃ解るもんでは無い。

ヨットはできれば、イージーハンドリングができて、頑丈な船体で、それでいて重くなく、セーリングのバランスが良く、重量バランスも良く、波にソフトで、それでいて充分な浮力があり、良く走ってくれるヨットが良い。でも、そんなヨットは超高価でしょうね。

モーターボートでは波に叩くというのは非常に顕著に現れます。何しろスピードが出てますから、へたすると小さな波でもドンドンと叩くのもあります。これなんか疲れて仕方が無い。そういうのがボートがあまり好きになれない理由のひとつでもあります。但し、良いボートになると、これはもう波に対して非常にソフトです。従って、波も上がって来ない。でも、キャビンが狭くなるんですね。

こういう性能を維持したまま、大きなキャビンがほしいとなりますと、サイズをでかくするしか無いようです。そういうもんです。ですから、自分の用途を良く考えて、選択する必要があります。キャビンを優先しますと、性能が落ちる。性能を優先すると、キャビンが落ちる(狭くなる)。価格面を考えますと、性能重視の方が高くなります。でも、見た目にはこれが解らない。ですから、そういうヨットは日本には少ない。品質とはこういう事かと思います。見た目には解りませんが、慣れてくれば、だんだん解るようになる。

そこで、どこかで妥協しなければなりません。妥協というとマイナス的イメージですが、そうでは無く、求める一致点を見出す事です。どれにしても完璧はありませんし、価格もいくらでも良いわけでもありませんし、そして必要な事は、選んだヨットがどんな性格であるかを知る事かと思います。数値のデータでわかる事、そして上述のような事は造船所のコンセプトになってくると思いますので、そのコンセプトを良く理解する事が必要かと思います。何しろ、命を預けるかもしれない、何十年と乗るかもしれないヨットです。そして、自分の遊び心を満足させてくれるヨットです。

次へ           目次へ