第五十五話 デイセーリングの視点

女性のヨットウーマンもおられますが、殆どは男、オーナーは殆ど男性です。その男にとって、ヨットとは何かと言えば、やはり彼女を持つようなもの。どんな彼女が良いか?と考える。だから、ヨットで家族を乗せてクルージングをと考えた途端に、ヨットは活動しなくなる。彼女が拒否するわけではありません。、オーナーが完全にファミリー志向になった途端に、オーナーは彼女の魅力に気づかなくなる。それはヨットを乗り物としてしか見ないからです。乗り物になると、移動手段としてのヨットという気持ちが色濃くなります。そうなると彼女の魅力に気づかなくなる。だから、オーナーはめったに乗らなくなる。家族志向も良いが、主としては、オーナーはヨットを彼女として見てやらなければならない。奥さんを乗せて走る、或いは本当の彼女を乗せて走る。そういう時、彼女が二人ではまずいので、オーナーの意識はヨットでは無く、奥さん又は彼女に注がれます。もちろん、それで良いわけです。もし、ヨットに意識を注いでましたら、奥さん又は彼女は面白く無いわけです。ですから、使い分けてください。自分の意識がどこに注がれているかを意識します。

ヨットが彼女なら、プロポーションが良くて、美しくなくてはならない。幸い、美的センスは各人各様で、様々な美があります。そして、各美艇を常にピカピカに磨いておいてこそ、彼女は彼女足りえる。何も、ブランド品をせっせとプレゼントする必要は無く、磨いて、愛してやらねばなりません。ですから、ヨットを持つという事は大変な事ですが、嬉しい事でもあります。世話のやけない彼女より、世話のやける彼女の方が、より美しい。

そんな美艇を手に入れたら、これはもうほっとけません。出来る限り接していたくなる。この美艇はどんなフィーリングを与えてくれるだろうか?そんな事を想像しながら、コクピットで1杯飲むだけでも楽しい感覚が沸き起こる。しかし、美艇の彼女だけれども、完璧ではありません。全てに平均的というのは無難ですが、美艇にはそういう平均が無い。どこかに突出しているが、どこかに不満もある。その突出した部分が不満をも凌駕するものでなければならない。その突出した部分は最高のフィーリング、他のヨットでは味わえないフィーリングを与えてくれる。

ヨットを彼女から乗り物として見るようになると、こうはいきません。汚れてもそのまま、古くなってもそのまま、美しさは無くなる。そんなヨットに乗っても、今一エキサイティングな感覚にはなりにくい。
これはヨットのせいでは無く、乗る側のせいです。幸い、ヨットは古くなっても、部品を交換し、ビシッと磨き上げると再び美しさを取り戻す。彼女と見ると、汚くなるのはほっとけませんね。いつも、きれいで居てほしい。

彼女はどんな性格をしているのか?それをひとつひとつ見る為に、何度も乗ります。同じコースでも風も波も違うので、いろんな面を見せてくれます。気に入る時もあれば、気に入らない時もある。気に入らない部分を何かの手段で変える事ができるかもしれませんが、そうでなければ、そのままにして気に入った部分を特に味わうように心がける方が良い。いずれにしろ、完璧は無いのですから。穏やかな時は解らなかったが、荒れてきたら、意外な一面を出す事もある。彼女の最も得意とする部分を発見して、それを堪能する。それには、かなりの時間をかけて何度も乗る必要があります。そういう目で見れば、微風では気合が入らないかもしれませんが、意外な一面を見れる事もあるかもしれません。また、波が高くなったら、どんな動きを見せてくれるか?

セーリングは風を遊ぶ事ではありますが、同時に、そのヨットの性格をいろんな場面で見出す作業でもあります。そして、また同時に自分の腕を見出す機会でもあります。その三つがピッタリと調和した時、何とも言え無いフィーリングが沸き起こる。そういう時、スピードが何ノット出てるとかは関係無いわけです。どうでも良い事です。ただ、そういう調和を目指す為にスピード計を使う。目安として使うだけです。

デイセーリングは、単純に日帰りセーリングでは無く、彼女を知る、自分を知る、そして調和を目指すセーリングです。そういう視点を持てば、いつも新しい発見ができるかもしれません。するといつも新鮮な気持ちで、神経が研ぎ澄まされ、今日はどんな発見ができるかと、楽しみながらセーリングができる。ヨットは彼女ですから、大切に可愛がって、彼女の魅力をひとつひとつ明らかにしていく作業を心がけたらいかがでしょうか?もちろん、欠点には目をつぶって、良いところを発見しようとするのがコツですね。すると、ヨットがどんどん面白くなる。

何年かしますと、彼女の性格を良くつかめるようになる。彼女はどんな時にどんな乗り方をしたら最高のフィーリングを与えてくれるかもわかります。でも、相当乗る必要があるでしょうね。男は浮気性で、もし、もっと違う性格の彼女ほしくなったら、仕方無いですね、買い換え時ですね。でも、良いんです。オーナーはひとつの冒険を終えて、次の冒険に行こうとしているだけです。そして、彼女はまた新しいオーナーに冒険の旅を与えてくれます。次の彼女は、また性格の違ったのが良い。
こんな風にしたいとか出てくるでしょう。家も3軒たてなければ解らないと言いますが、ヨットも同じかもしれません。

最初のヨットがピッタリと自分に合ったなら、これはラッキーです。もっともっと付き合えば、まだまだ知らなかった魅力が出てくるかもしれません。長く、永〜く、お付き合いするという味わいも出てくる。自分の技量も変化していますから、その事で新しい発見ができるようになるかもしれません。一心同体、そんな風になっていくかもしれませんね。ツーと言えばカー、そんなにまでなったらどんなセーリングができるのか?これも面白いと思います。

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