第三話 セール操作の快

シートは最低限、誰でも操作します。これは単に風に対するアングルの変化です。と同時に、セールの形状も変わってしまいます。そうすると走りも変わる。そこで、どうやって形状を整えるかを遊ぶ事になります。これを遊ぶか、遊ばないかが大きな違いになっていくと思われます。操作をする為のいろんなロープ、これらはセール操作の為にあります。これらを使って、いろんなセール形状を生み出す為にある。それらを使って遊んでくださいという、ここにこそ遊びがあると思います。

セールは風に対する角度とセール形状のふたつ。角度はシートを引いたり、出したりするだけで角度を設定できます。ピタリと最適な角度で無くても走る事ができる。実に寛容な乗り物ですね。ですから初心者の方でもすぐに走らせる事ができます。有り難い事です。しかし、これはヨットの入り口に立っただけで、本当の面白さはこれから始まると思います。より適切な角度と形状を求めて、いろんな操作をして遊び、その結果、快走があり、快走があれば手段である操作も快となって全てがハッピーであります。

ひとつひとつのロープの役割は以前にも書きました。複雑なのはひとつのロープを引くと、セール形状は変化し、自分のイメージする形状にするには、他のいくつかのロープをも操作しなければなりません。シート以外にもうひとつロープを操作すれば、ひとつ形状が操作前より良くなる。ふたつすればもうひとつ良くなる。こうやって、自分のイメージに近づけていきます。自分のイメージ通りのセール形状を作り、快走をした時、何とも言えない快が生まれます。

ヨットは風に対して走る方向がいろいろありますから、あらゆる角度に適切なアングルとセール形状を作り出す事ができれば、かなり面白くなる。さて、さらに、風が一定ではありませんから、そこに複雑さが生まれます。それがさらにヨットを深いものにしています。そして、どの段階であっても
セールが適切で無くても、ヨットは走る事ができる。これがヨットの寛容さです。セールを出しただけでヨットは走る。そして操作はアナログ的にセール形状を変化させ、最適に近づく。どの段階でもヨットは走る。最適でなくても走ります。でも、最適に近づけば近づく程、快走の度合いが増す。そういう乗り物かと思います。ですから、最適を得るのは簡単では無いが故に、何十年も乗り続ける事ができます。

ベストが解れば、もはやレースは存在しなくなる。世界最高峰のアメリカズカップでさえ、勝ったり負けたりなのですから、頂点でさえベストには至っていない。100m競技で10秒の壁を破り、その後タイムを更新し続ける。それと同じですから、完成は無いという事は、死ぬまでやっても、必死にやって完成には至らない。ですからのんびり自分のペースで楽しみながらできるという事になりますね。実に有り難い乗り物です。

完成に至る事は無いのならば、完成を求める必要は無いわけで、より良いを求めれば良い事になります。刻一刻変化する条件の中で、どこまでやるかはオーナー次第、自分で決めれば良い。つまり、どこまで遊ぶかは自分で決める事になります。今日はのんびりやろうという事もあるし、今日はとことんやるぞという時もある。どこまでしなければならないという事は全く無いわけで、自分で自分の遊びを演出する事になります。

とは言っても、シートのみの操作ではあまりにも遊びの範囲が狭いので、一応は全ての艤装を扱う事にしましょう。そして、その調整をどこまでやるかは自分の遊び心次第という事になりましょうか。
デイセーリングでは走りなれた近場をセーリングしますから、それにはセーリングの妙を楽しむのが最も良いと思います。それが旅なら、風景は変化しますし、時間も長い。セーリングの妙を楽しむのはデイセーリングがもって来いと思う次第です。ただ、他のスポーツのようにうまかろうが、下手だろうが点数になって出てくる事がありません。ゴルフのようにスコアとして腕の良し悪しが明確に出ますと、励みにはなるだろうとは思うのですが、そんなスコアは存在しません。感覚でしか無い。そこが曖昧な所で、まあ、自己満足でしか無いかもしれませんが、でも、ホールインワンをしたような、そんな気分になる事は確かにあります。

次へ        目次へ