第二十一話 ドラマ

これだけのキャビンと装備があるのですから、もちろんキャビンを遊ぶ事ができます。でもです。それだけでは物足りなくなりませんか?欲求不満が出ないでしょうか?1年しか使わないなら別かもしれませんが、5年、10年と使うなら、キャビンで遊ぶのはオーナーの勝手ではありますが、それだけでは、きっと5年後、10年後に堪能したという満足感は生まれてこないのではないかと思います。これが車のように、通常は移動や荷物運びに使えると言うのなら、話は別ですが、ヨットはそういう役には全く立たないのですから。

もちろん、キャビンで遊んで良いのですが、それを主にせず、脇役にして、主をもっと面白い物に変える事が必要ではないかと思っています。それは旅か又はセーリングだと思います。旅は見知らぬ地の開拓、冒険でもあります。そこにはロマンがある。ですから多くの方々がその魅力に惹かれて、旅に出ます。その旅には、良い事ばかりは無いでしょう。良い事も辛い事もあるかもしれません。でも、それが冒険で、だからこそロマンがある。夢やロマンには、辛い事もある。それを通りすぎてこそ満足感もある。

映画を見て、主人公が我々と全く同じような日常生活をおくっているだけなら、何の面白味も無いわけで、そこにはドラマが必要です。そこに面白さを感じるわけです。主人公がどうやって処理するか、どうやって乗り越えていくか、そういうドラマを楽しんでいるわけです。主人公はヨットのコクピットで毎週宴会をして楽しんでいる姿、それを何回も見る気にはなりません。何故なら、そこにドラマが無いからです。

我々はコクピットで寛ぎ、家族と、仲間と宴会すると楽しさを感じます。でも、そこにはドラマは感じられない。だから、そのうち何でも無い事になりかねません。面白さを感じる、それも長い期間となりますと、やはりそこにはドラマが必要です。そのドラマをどう作るか?それが旅でもあります。冒険でもあります。どの程度の冒険かは、自分で演出すれば良いわけです。でも、そのドラマには必ず多少なりとも辛さやドキドキする時やスリルを感じる時がある。どんな種類かはそれぞれですが、必ずある。そして、グッドフィーリングもある。

旅をしない人にはセーリングというドラマを作る事が、長く、ヨットを楽しむ秘訣かと思います。遠くを目指すか、近場のセーリング、このどちらかではないか、今の所、これら以外には思いつきません。それで、私は後者をお奨めしているわけです。セーリングにはドラマがあります。旅にもドラマがある。ドラマこそが、面白さの原点ではないかと思う次第です。

それでそのドラマを作るにあたって、自分なりで、少しづつ広げていく。ドラマを最初は小さくから、慣れてくれば徐々に拡大していく。拡大と言っても、距離の事を言ってるわけではありません。幸い、近場でもいろんな状況があります。その状況の変化は小さなドラマから大きなドラマまであります。自分で選択する事ができます。若い方と年配の方が同じ走り方ではおかしい。自分の合った走り方というのがあります。その自分のやり方でドラマを作る。そうしますと、5年、10年後にきっと堪能した満足感で一杯になると思います。良い事も辛い事もあった。でも、面白かった。面白いヨットライフを、どうせならそういうドラマを創っていただきたいと思います。

キャビンを遊ぶ事を否定していません。それも必要な遊びのひとつだと思います。でも、それを主役にはしない方が良いかと思うだけです。もちろん、オーナーの自由である事には違いありませんが。

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