第九十四話 動けば良いってもんじゃない

最初はどうにかして動かす事を考えますが、動けばそれで良いわけじゃなく、次はいかに走らせるかを考えます。それがセーリングゲームの始まりかと思います。セールを上げればヨットは動く、それだけではまだゲームには至っていないのでは無いでしょうか。そこから、いかに動かすかを楽しむのがセーリングではないかと思います。

野球で言うなら、どうやって投げるか、どう打つか、打ったらどっちに走るか、その投げ方、打ち方、走り方を学んだ。それだけではゲームは始まっていません。ゲームはこれからです。動かすだけならヨットは簡単、でもそれはあくまで下準備、これから先のゲームが面白くなると思います。

ゲーム相手は人間では無く、自然相手ですから、勝った、負けたのストレスは無く、ただ感覚だけが残ります。このゲームは、いかに走らせるかを考え、実行し、その結果、あるフィーリングを得る。どんなフィーリングを得るか、そういうゲームです。丁度、音楽を作ったり、絵を描いたりするのと同じです。音楽の基礎を学んで、ある曲を作る。どんな曲になるか、絵の基本を学んで、どんな絵を書くか、そういう事と同じかと思います。

それなら、どうやって動かすかが解ったら、今度はいかに走らせるかを考えます。それにはたくさんの知識を少しづつ増やしながら、実践し、レベルを上げながら、完成度を高めていく。そういうプロセスの知的ゲームです。ヨットはその為の道具です。野球のバットやグラブ、音楽の楽器と同じです。それをより良く知って、使いこなす事がより良いゲームをする為に必要なことかと思います。

セールを上げれば、風に対してどんな角度に設定すれば良いか、セールは固い板ではありませんから、今この風に対してどんなカーブを描いたら良いのか、風はいろんな風があり、常に変化し、波もある。ですからたくさんの知識が必要になる。そして、それをする為に何をどう操作したら良いのかという事もあります。いろんな風に対していろんな設定があって、そのパターンは膨大でしょう。

音楽の音というのはドから始まって、オクターブ上のドまでの間に全部で12音あります。その組み合わせも膨大です。その組み合わせによっては、良い音楽になったり、感動させたりしますし、聞くに堪えなくなる場合もある。それとちっとも変わらないのではないでしょうか。

ヨットの場合は、音楽と違って、風が思い通りにはならないので、ぶっつけ本番、練習が本番でもあり、本番が遊びでもある。そう考えますと、もっと学ぶ必要があると思います。最初はうまく行かなくて当たり前ですが、経験を積み重ねるといろんな事が解ってきますので、快走のパターンも増えてくる。今日は良い走りだったとか、もう少しセールをツウィストさせた方が良かったかなとか、いろんな感想が漏れてくる。ヨットというのは、本来、そういう遊びなのではないかと思います。
学んだ知識、それを実践して、快走ができた時、これはもう嬉しいもんです。でも、次にまたできるかどうかは解りません。それだけパターンは膨大になりますから、一生続ける事ができます。

ヨットは極めてインテリジェントな遊びです。ですから、こちらもインテリジェントにアプローチした方が良い。そして、前話でも書きましたが、その実践にあたっては複雑にいろんな細かい事をするアプローチの仕方もあれば、楽な操作でアプローチするやり方もあります。どちらにしても、インテリジェンスは同じです。そして、シングルハンドのアプローチをするならば、楽な操作で、最大の走りを得るアプローチの仕方をお奨めします。2〜3時間のセーリングゲームを楽しむには、最高の方法かと思います。

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