第九話 目的地の無いヨット

目的地を設定しなかったら、ヨットに乗る事そのものを味わうようになると言いました。それでどうやって乗るかですが、目的地は不要ですが、目標はあります。いかにセーリングするかです。デイセーリングではそういう乗り方になると思います。いかにとは言っても、何らかの設定はあります。

ロケーションにもよりますが、島が近くにあるなら一周してくる。無ければ、何かブイ周りか、陸地の建物、灯台なんかを目指して走り、そこまできたら、別の目標に向かい、そしてホームポートに向かう三角形とかを自分で設定してみます。その日の風の具合で変えても良いし、臨機応変です。その時に決めても良い、風の具合で決めても良いと思います。いくら無目的が良いとは言え、ぼ〜っと乗っていたのでは面白くありませんので、自分でテーマを持つ事は重要かと思います。風に向かって上りを1時間、下りを1時間でも良いし、その時の風次第で味わいたいやり方を決めるのも良いと思います。

上りや横からの風はたいてい誰でも良くセーリングしますが、下りはジェノアが使いものにならないので、これをどうするか?ジェノアをウィスカーポールを使って走るか、ジェネカーを使うか、スピンを使うか、事情によります。この走りにも充分に慣れるように自分で選んで、あらゆる角度での走りを自分なりに遊べるようにしておく事は大切かと思います。うまい、へたよりも、自分なりに遊べる事が大事かと思います。

風の強さ、波の高さ、その時どっちの方向に向かうかによって、状況が異なりますので、全く同じという事がありません。そうすると無限の状況があります。その中でどんな走りをするか、レースでも無いのに。

上りギリギリで走る。その時の風速、ヒール角度、艇速、別に記録する必要もありません。何度も乗っていますと感覚的に覚えてきます。でも、初心者の頃ですと計器があるととってもわかりやすいので風向風速計などはお奨めです。この走りだけでも、何度も乗って、いつも同じにはならず、微妙に違ってきたりします。それが感じられるようになる。タッキングをスムースに行えるように、できるだけスピードを落とさないように、効率的にやるにはどうしたら良いか。そういう事は無駄が無く、体も楽です。上りギリギリですから、ちょっと舵を切り損ねますと、角度が落ちたり、裏風が入ったりしますから、緊張感を伴います。それを意識的に味わう、遊ぶ。そうやっていますと、だんだん
誰でもうまくなっていくもんです。うまいから面白いのでは無く、うまくなっていくから面白いのだと思います。同じタッキングでも微風から強風までありますから、これもなかなか深い。面白いセーリングをするには、ある程度の緊張感がところどころに散りばめられている事が必要かと思います。

上りから今度は横風、或いは一転して下りの風、舵のコントロールもあれば、セールのトリミングもありますから、やる事はたくさんあります。一度に全部できないにしても、少しずつテーマを持って走ると、回数を重ねる度にうまくなっていきます。それも自分のヨットで、何度も乗りますから、艤装の配置や力加減も慣れてきます。工夫もしてくるし、いろんな事を試したくもなります。

そうやって乗り続けていますと、そのうちセールカーブがどうこう、シートをちょっと出して、或いは引いて、そうしたらセールはこうなってもっと良いはずとか、そんな事も考えずに感覚的に少し解ってくる。考えずに行動する事があります。頭脳はセーリングを意識していながら、あれこれ考えていない。そういう時、ある事がきっかけですごい快感に襲われる事があります。丁度良い風が吹いてきて、最高の走りが味わえた時、たまたま夕陽が沈みかけて夕焼けに気がついた時、魚が群れて、海面が盛り上がっているのを見た時、何とも言えない感覚になります。これは一種のハイな気分とでも言いましょうか。

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