第八十六話 助べえ心

ヨット好きがヨットしようと思ったら、大きなキャビンがついている。そこで、このキャビンで何をしようかと考える。それを考え出したら、いろんな装備が必要だと思えてくる。温水が出るそうな、冷蔵庫があるそうな、トイレだって電動で、ベッドだって前と後ろにあるし、これなら家族全員で寝る事もできる。ならば、いっそのこともうちょっと広い方が良いな。テレビもステレオもDVDも要るし、夏と冬にはエアコンあれば言う事無し。

こんな快適キャビンからすればセーリングはかなりしんどい行為に見えてくる。かくて、セーリングはほどほどの風の時、波の無い時にしか出無くなり、出ても、快適キャビンの延長上にあり、飲み食いが主となる。ところが、こんな快適天候と自分の休みが重なる事は少ないときた。おまけに快適キャビンのはずが、どうも今一。ならば、仲間を呼んで宴会しよう。家族だって、一度目は良いが、2度、3度とキャビンにこもっていても、魅力が薄れてしまう。じゃあ、今度の夏にはちょっと遠出しようか。

そんな時、ちょっと時化たりすると、家族はもう御免こうむりたくなる。かくて、家族はヨットに来なくなる。おまけに紫外線もあるし。紫外線はお肌の大敵だ。

マリーナに来ても、人は少ない。だから、自分だけキャビンに居ても、何か面白さが無い。欧米ではマリーナにヨット社会が形成されているので、自分がぶらりと来ても、何となく過ごす事ができる。
逆に煩わしさもあるかもしれませんが。そんな社会から生まれたヨットは、そういう風に使う事に向いている。日本はちょっと違う。日本はとってもユニークな存在かもしれません。先週の金曜日、デンマークの造船所から、明日から1ヶ月間の休暇に入るとの連絡が来た。働きすぎた体を癒す期間だそうだ。彼らはそういう社会なのです。

誰もが持つ助べえ心、という事はそんな社会を望んでいるのかもしれません。でも、どうやったらそうなるのか?都会は隣近所の付き合いが希薄と言われます。日常で望んでいないのに。或いは、自分だけでそんな楽しみができると思ったのかもしれません。ところがどっこい、自分だけでやってみると、案外楽しくないのでは無いでしょうか。邪魔はされたく無いが、寂しい祭りも嫌だ。そう、お祭りみたいなもんで、それじゃあ、誰か仲間を呼んでこよう、そして宴会だ。キャビンに居るとヨット以外の何かが必要になってくる。

他の何かが必要?ならばセーリングすれば良いじゃない。セーリングを面白くすれば、キャビンに対するニュアンスも変わってくる。

今の多くのヨットはクルージング向きです。セーリング向きでは無い。コクピットで過ごす為に広く、邪魔になりそうな物は移動させている。それにセーリングに関する艤装も無くしている。これでは、セーリングが面白くなったら、不満が出る。多くのヨットはセーリングを遊ぶ風には考えていない。
キャビン主でセーリング従ならそれでも良いかも。でも、それは欧米的、日本的には、セーリングを主と考えた方が面白いのでは?

キャビンが不要とは言わない。充実させて多いに結構。でも、不必要に大きいキャビンはセーリングの邪魔だし、セーリングする時に、何をどう操作するかを考えたら、実に不便。そう、セーリングは旅が主で、でも、旅の期間は扱わない。だからと言って、セールまで撤去してたらヨットとは言えないので、そこまではしない。じゃあ、セールはマリーナから出たちょっとしたピクニックセーリングには良い。それが欧米社会。それと同じようにやって楽しいだろうか?毎年、どうどうと1ヶ月も休む彼らのスタイル、土日も休み、マリーナでの社会の有り様、考え方。彼らにとって、ヨットは当たり前の遊び、我々がボーリングに行く以上に気軽な事だそうです。

ところが、最近ノルウェー-に行ったある方、彼の話によりますと、殆どのヨットに、ジブシートのリードブロックを前後に移動させる艤装がついていたそうだ。彼らはセーリングを楽しんでる。操作する事を楽しんでいる。キャビンも同様ですが、セーリングも楽しむのが彼らの流儀なのでしょう。

日本のクルージング艇には、こういうリードブロックを前後に動かす艤装はほとんどついていない。もともと欧米のクルージングヨットについていない。オプションでも無い。これがすべてを言い表しているかもしれません。欧米と言っても北欧はちょっと違うようです。

日本も違って良いはずです。日本スタイルで行きましょう。私の提案はセーリング主で、キャビンと旅は従です。

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