第七十二話 楽しいから面白いへ

ヨットにおける楽しさを考えますと、快晴、暑くも無く、寒くも無く、ほど良い風、波は無く、そういう理想的な中でのセーリングは楽しい。或いは、友人や家族を招待しての、クルージング、賑やかな、和やかな集い。そういうイベントは本当に楽しい。そして、これがみんなの休日と重なる事が条件です。そうなってきますと、誠に残念ながら、年間にそう多くは無いという事に気づきます。仮に、毎週週末がこういう状態が続いたとしても、毎週毎週、同じ事をすると飽きてきます。

幸か不幸か、ヨットは練習を必要とする遊び道具です。練習無しでは乗る事ができません。練習という言葉から受けるニュアンスが、ある種のしんどさを感じさせますが、ヨットに関しては、練習そのものが遊びであるという幸運があります。回数多く乗るだけで練習になり、その練習は遊びでもある。但し、その練習は楽しいものとは限りませんが、面白いものではあります。

ヨットは練習が必要という事は、練習は上達を意味しますから、上達にはレベルがある事になります。つまりは、うまくなりたいという意思があって、遊びながら練習すれば、練習は面白いという感じを得る事ができるのではないかと思います。何しろ、腕が上がっていくプロセスというのは、自分で感じれば、とっても面白いという感覚が沸き上がってきます。

微風から強風、波があったり、無かったり、いろんな変化がありますから、同じコースでも、同じ状況というのは無いのですから、変化に富んでいます。その変化が嫌だと思うと乗れ無くなりますが、うまくなりたいと思うと、変化は面白さになると思います。

それでうまくなると何か良い事があるかと言えば、ありますね。いろんな変化に自由自在に対応できて、その変化に応じた帆走ができる。そうなると、気持ちにも余裕が生まれ、今までは感じなかった、もっと微妙な変化さえも感じられるようになってくる。それが面白い。それを感じられる自分が自信にもなります。レベルが上がるというのは、誰でも嬉しいものです。

レベルが上がると言っても、井の中の蛙という言葉がありますが、他人と比べてどうかという全体平均のレベルとどうか、という比較も考えられますが、でも、そんな事を気にする必要があるでしょうか?レースに参加して勝ちたいと思うなら別ですが、自分で趣味として遊んで、楽しく、面白ければ良いわけですから、自分で自分のレベルを自分のペースで少しづつプチチャレンジをしながら続けていけば、自分の面白いと思えるペースで続けていって何が悪いでしょう。井の中の蛙でおおいに結構かと思います。

結論、ヨットは練習が必要である事、その練習が同時に遊びである事、たくさん遊べば、うまくなっていく事、たくさん遊ぶには、楽しい事ばかりでは無く、プチチャレンジがある事、それを受け入れれば、楽しいだけでは無く、面白いになる事。井の中の蛙であっても、その深さを知る事ができる事、結局、ヨットは楽しいというレベルから、面白いというレベルに移行していく事が、その深さを知るに必要な事。その為に練習が必要で、それが遊びである事。簡単に言えば、たくさん、回数多くのりましょうという事です。

回数多く乗る人は、最初は何が何だか解らなくても、そのうち何かを発見するでしょう。面白さを発見するでしょう。これはどんなに想像しよう思ってもできない事です。迷路で、道を発見するようなものです。それが面白い。楽しさのレベルを遥かに超えてます。デイセーリングで、近場をセーリングする。想像だけでは、何が面白いのかと思うかもしれません。想像する時は良い条件の快走しか想像しません。これは不十分なのです。実際、いろいろやってみてください。面白いか、面白く無いか、きっといろんな発見が出てくると思います。ですから、デイセーリングでも充分、井の中の蛙でも充分、面白いし、その深さを知る事ができると思います。

釣りはいろんなバラエティーに富んでいます。大海を走って、大きなカジキを釣り上げるだけが釣りではありません。人によっては、小さなへら鮒釣りを好む方もおられます。鮎釣りや、鯛釣りなど、それぞれに釣り方が違う。 そして、それぞれに深さがあるのだろうと思います。大きな魚を釣るだけが釣りでは無い。繊細さを好む方もおられます。彼らを釣りに駆り立てる力は、うまくなって、もっと釣りたい、あの感覚を得たい、そういう意識が強いからだと思います。面白くてたまらない。ヨットでも同じではないでしょうか。獲物を追いかけるわけではありませんが、外洋だけがヨットじゃない。デイセーリングで、繊細なセーリングをする事もできる。強風で豪快にも走れる。いろんな状況でいろんな走りができる。そして、釣り人が道具をメインテナンスするように、その走りをもっと実現する為に、メインテナンスをするし、工夫したりもします。ヨットが面白ければ、そういう事も苦痛では無く、面白さになると思います。

要は、うまくなりたい。うまくなって、もっといろんな走りで、いろんな体験をしたい。そう思うと、ヨットは楽しさから面白さに変化していくのではないかと思います。

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