第四十四話 レースをしないから

クルージングの方はレースはしないからと言って、セーリング重視はされません。それは良く解ります。実際、レースの世界に入ると、知識や技術は半端なもんじゃありません。相当突っ込んで、しかも長いこと練習しないと身につかないものです。でも、だからと言って、セーリングを重視しない事にはならないと思います。

レースはしなくて結構、しても参加する程度でも結構、ですが、ピクニック程度のセーリングから、ほんの少しセーリングを意識して帆走しましょうという話です。今より少しで良いと思います。そういう意識をした途端、これはもうりっぱなスポーツです。

マラソンなんかに参加しなくても、ジョギングする人は多い。意識して健康の為に歩く人も多い。それで良いと思います。意識をセーリングにシフトするだけで、もう少しこうとか出るもんです。自分に出てきた疑問に、自分で答えを出していくセーリングをする。それでりっぱなスポーツかと思います。ヨットでスポーツと言いますと、多くの方々が拒否反応を起こされる。何もクルーを集めて、すごいセーリングにハッスルしなくても良い。そんな想像はやめて、自分がジョギングする程度で、少し意識して帆走する。すると、少しセールトリミングや角度や、こういう時はどうかなんかの疑問が少し出てくる。出てきたらしめたもんで、それに答えを見つける作業をする。本を読む読む、人に聞く。
それによって最後は自分で答えを出す。それが面白いに繋がっていくと思います。

今のレースの世界は非常に高いレベルにあります。ローカルレースだってそうです。艇のレベルもそうですが、乗り手の技術レベルも高い。そんな中に参加するのは、余程好きでないとできません。それはクルージングとは別世界、私が言うスポーツとも別の世界です。そんなハイレベルへのお誘いでは無く、誰でもできる、面白いセーリング。意識をセーリングに置いた時から始まるセーリングで充分かと思います。もっと基本的なセーリングです。

それで、各人によって、疑問が沸いて、それに答えを出してを、徐々に続けていく。それで延々と続けていく事ができます。意識がセーリングに無いと、疑問も沸きません。何を知らないかも知らない。でも、意識すると疑問が出る。レベルが高いとか低いとかはどうでも良い事で、自分が気持ちの良いセーリングをどうしたらできるかです。シングルはシングルで、ダブルはダブルで、どうしたらスムースに、いろんな気象条件においてできるかです。

ひとつ疑問が解けると、レベルがひとつ上がる。ちょっと嬉しいじゃないですか。人間は進化する事を喜びとするように出来てる。どのレベルであっても、そこにずっと止まる事は面白く無い。例え、高いレベルに居たとしてもです。永遠に進化をし、それが面白いと感じるのが人間のDNAに入っていると思います。ですから、それをした方が面白いという事になります。

それをスポーツしていると言います。何も老体にムチ打って、どんどん走れという話じゃありません。あくまで自分のペース。ジョギングだって、テニスだって、誰でも自分のペースでやってます。それと同じで、おしゃべりや飲み食いだけの、ただ漫然と走っているだけのセーリングでは無く、少し意識したセーリング、それも徐々に疑問を解き明かすセーリングを続ける。それが結局は楽にセーリングをする事になります。うまい方は少ない動きで効率の良いセーリングをされます。省エネセーリングです。その省エネセーリングに少しづつ近づいて行く為にも、疑問と解決というプロセスが必要です。しかも、その行為自体が面白いになりますから、これは是非実行して頂きたい。

現状の有り方から大きく違うのかと言いますと、変わりません。ただ、意識する事から始めるだけで良いと思います。仲間とおしゃべりに興じていたのを、少しセーリングに意識をシフトする。毎回で無くても、状況に応じて割合を増やす。それでスタートするので良いと思います。

でも、レースはしなくても、レーサーが学んでいる、習得している知識はとっても勉強になります。その基本的知識から、少しづつ時間をかけながら進むのも、セーリングをスポーツするおおいなる面白さを助けてくれると思います。あらためてセーリングの奥深さを教えてくれますし、それをクルージング艇でやっても良いはずです。勝ち負けは無く、面白い範囲でやるのがミソですが。セーリングはレースもクルージングも同じセーリングに違いないからです。セールのセッティング、トリミングの仕方、微風、中風、強風、それぞれに研究されていますから、おおいに学んで、知識を得る。
レースとは違って、ゆっくりやって良い。セーリングは知れば知る程、面白さが増すと思います。

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