第二十話 ヨットと車

セールは車で言うならエンジンと言われます。風は燃料でしょう。燃料を増やせば増やす程、スピードは上がる。セールコントロールは車で言うならアクセルでしょうか。エンジンに入る燃料の増減を行います。セールに入る風の量をコントロールします。多すぎても良くないし、少ないと走らない。
車の足回りはヨットで言うならスタビリティーというところでしょうか。残念ながら、ヨットにブレーキはありません。あえて言うなら、スロットルを下げる、つまりはセールコントロールによって燃料を逃がす事になります。

車なら燃料の量をスロットルでコントロールできますが、ヨットの燃料である風はコントロールできません。という事は、いろいろ変化する風の量にあわせて、セールコントロールをする。その時の風の最大限の使い方を見つける。それには、セールコントロールだけでは無く、スタビリティーも関係してくるし、船体の剛性も関係する。しかし、それらは操作できるものでは無いので、唯一操作できるセールコントロールによって、最大限のバランスを探す。ヨットはそういう遊びかと思います。

全てをコントロールできるにしても、最大限の効率を見つけるのは難しい。その上、コントロールできない燃料の風があるのですから、さらに難しい。おまけに、フィールドは舗装された道路にも、悪路にもなる。だいの大人が挑戦するには充分なチャレンジかと思います。

ヨットをやるのは、そんなチャレンジ的なセーリングをするだけではありませんが、愉しいヨットから、面白いヨットにするには、そういうチャレンジが必要なのではないかと思います。ヨットが今一増えないのは、そういう面白さに気づかないからではないかと思います。その他の遊びにしても、普及するのは、みんなそういうチャレンジ的要素があるものばかりではないかと思います。チャレンジ性を無くした時、愉しさばかりになって、一見良いようで、実はそれでは物足りなくなってしまう。チャレンジは怖いけれども、それ無くしては人は面白さを感じない。

考えて見れば、セールコントロールはいろんな方法があります。うまく行かないにしても、走る事は走る。でも、もうちょっと何かをする事によって、もっと素晴らしい走りを体験できるかもしれません。そのもうちょっとをするかしないかにかかっている。そのもうちょっとに何をしたら良いか、そこを考えてみる。バックステー、アウトホール、ハリヤード、シート、舵、バング、リードブロック、トラベラー、扱う艤装はこんなもんでしょうか。ひとつひとつがどんな働きをするか、それを知って、今度は組み合わせて、その時の風にあわせる。これが結構難しい。船体とのバランス、波もあります。
それをひとつひとつ解明していく、何度も何度もセーリングしながら、解き明かしていく様はまるで推理小説のようです。考えようによっては、ヨットはそういう頭脳のトレーニングでもある。ヨットは体力だけが勝負ではありません。もっと知的に遊びましょう。体力をあまり使わなくても、美しいセーリングを目指して、頭で勝負するという方法なら、老若男女、誰でもできます。頭を使って、ひとつひとつを考えて下さい。そうこうするうちに、それが解ってくる。解った時は嬉しいものです。その嬉しさを味わうのがヨットです。

その嬉しさを味わうなら、面白さが増してきます。最近、クルーがめっきり減ったと言われます。若い人でも、そういう嬉しさを味わえば、面白さがわかるはずです。昔と変わらず、今の若い人達は野球やサッカーに夢中だし、楽だけを求めているわけでは無いと思います。面白いか、面白く無いかです。今のオーナーが面白いセーリングをしないと、クルーは面白さがわからない。面白く無いものには来ません。しんどいから来ないのでは無く、面白く無いから来ないのではないかと思います。まずはオーナーが面白いと感じる事が必要です。

是非、面白いセーリングをして、ゲストにその面白さを味合わせてください。愉しさだけでは無く、面白さをです。そうすると、もっとヨット人口が増えていくのではないかと思う次第です。その時、オーナーは実にカッコイイと思いますね。ヨットは実際、誰でもできるものではありません。一部の方がその恩恵を享受できます。ですから、ヨットを持っているだけでも大変な事で、それだけでもカッコイイのですが、もう少し踏み込んで、心身ともにカッコ良く行きましょう。知性の高さを見せ付けてください。年はとったとしても、体力は衰えても、知性では負けません。

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