第六十三話 セーリングの死角

風に対していかにヨットを対応させて、効率良く走らせるかが面白さになりますが、効率がよければ必然的にスピードも上がるという事になります。強風にフルセールで走ればスピードは上がるかもしれませんが、今度は自分がその分無理をしないといけなくなります。風、ヨット、自分とのバランスをうまくとって、最も良いセーリングを探します。それを遊ぶと言って良いと思います。

さて、もうひとつの遊び方があります。ヨットには走れない角度がありますが、風に向かって、それ以上きり上がれない角度があります。その角度以外は全て、どの角度でも走る事ができますが、この死角はどうにもなりません。性能が良いヨットなどはその角度は狭くなるし、そうでない艇はその角度が広くなる。

このデッドゾーンが無いなら、ヨットはあらゆる方角に走れますが、逆に、これがあるからこそ、ヨットの面白味というものが出てきます。この走れないゾーンに目的地があるなら、例えば島周りとか、適当なブイを設定するとか、そういう場合でも適当に近づいて、回る事も可能ですが、これをより効率良く回るという遊びもあります。レースでは当たり前の事ですが、遊びですから、自分で回る時もたまにはそういう事を考えて遊んでみるのも良いかもしれません。数学的な遊びですね。面倒かもしれませんが、解ってくると面白さもあります。

例えば、目的地が真北にあって、その真北から風が吹いてくるなら、左右どちらかアプローチでしても条件は同じになりますが、走っている間に、風が東側や西側にシフトしていくかもしれません。そうすると、左右で条件は違ってくる。西に風がシフトすると、東側に行った方がより目的地に早く近づけますし、その逆なら西側に行く。出来るだけ有利な方向を長く走った方が良い事になります。事前に目的地のコンパス針路を得、それに対して風向の角度を得れば解ります。それだけなら、ヨットの針路を得るのは簡単ですが、風向が変わってきますと、そうもいきません。目的地が何度の方角にあって、何度で今走っていて、風は何度からきているか。そして、風向が変化しますから、常に見張っていなければなりません。レースでは無いので、相手との駆け引きは必要ありません。ただ、いつも同じ位置を回るにも、その時々によって、効率の良いコースは変わる。さらに言うならば、潮の流れがどっちから来ているかも影響しすね。

レースでは無いので、そういう事を考えて走る必要もありませんが、でも、ちょっと余裕が出てきたら、そういう遊びも悪くは無いと思います。ヨットの上りが面白いといわれる所以でもあると思います。同じ性能のヨットでも、コース取りによっては、目的地に到達するのが早かったり、遅かったりする。下りもそうです。デッドゾーンはありませんが、真後ろの風だと帆掛け舟になって効率は悪い。
揚力を使って、もう少し上った方が速い。でも、走る距離は長くなる。それをどう考えるかです。面倒くさいと言えば、そうなんですが、そういう事を理解して、走るというのも悪くは無い。遊びですから、どんどん遊びに挑戦してみる。速いからと言って、何もご褒美はありませんが、理解するという面白さが出てきます。

ヨットはある一定の方角に走る時、いかにセッティングをするかという遊びがあり、視点を変えれば、コース取りという遊びがあります。これがレースになると、他艇との駆け引きも出てくる。レースの場合は、競争ですから、勝ち負けになります。必ずしも自分の行きたいコース取りができるとは限りませんが、デイセーリングのスポーツ的クルージングなら、それができます。

同じデイセーリングでも、漫然と走る時もあるでしょうが、こうやってセールセッティングやコース取りを考えて走ると充実感も違ってきます。遊びですから、いろんな実験をしてみても良いですね。
ヒールさせて走る時、何度ぐらいのヒールの時が最も効率が良いのか、自分のヨットのタックの角度は何度か、ジェノアだけで走る。メインだけで走る。どういう違いが出てくるか。どの方向で走るのが最も速いのか。そういういろんな意識を持ちますと、自分のヨットに熟知してきます。性能が良く解る。すると、他の艇に乗る機会があったら、どんなに違うかも良く解る。解るというのは、実に面白さ、充実感をもたらしてくれると思います。

ですから、行きが上りなら帰りは下り。三角コースをとって、あらゆる方角を一通り楽しむというのも良いかもしれません。上りはどうする、下りはどうする。イメージをしてみてください。走りながら、いろんな事を試してみる。いろんな事がわかって、面白いと思います。

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