第五十七話 独自性

自分の好みを充分に反映させるのが最も面白いやり方だとは思いますが、これには同時に不安がつきまといます。みんなと同じである事に安心感を覚えます。例え、失敗でも自分だけじゃない。自分だけじゃないから、失敗とも感じない。自分が独自性を発揮して、失敗するよりましである。

ヨットについて、ある人に言わせると全体の90%は殆ど動いていないという人がおられます。90%が真実かどうかは解りませんが、まあ、だいたい似たりよったりの数字ではないかと感じてます。それがみんなで失敗しても安心となっている。楽しんではいないのに、或いは少ししか楽しんでいないのに失敗だとは気づきません。そんなもんだと感じてしまいます。

何が失敗かと言いますと、面白ければ使いたくなります。それ程でも無いから使わない。これは丁度、別荘と同じような感じがします。ほんのたまに行くぐらいです。ヨットは別荘にも成り得ますが、別荘が本来の役目ではありません。なかにはそういう使い方をされる方々がおられるとしても、メジャー的な使い方はセーリングにある。その為にセールがついてる。セールが無ければヨットでは無い。ですから、主たる使い方はセールを使っていかに遊ぶか。それがヨットの使命かと思います。ヨットの使命がセーリングなら、他は二次的な要素です。オーナーの使い方のバリエーションです。その方が主になった時、それはヨットである必要性は、必ずしも無い。ヨットを楽しむには、セーリングを楽しむ事、これが主になるとヨットは充分に役目を果たす事になると思います。

ヨットでセーリング以外を楽しむのは、たまにで良い。いくら暇があっても、別荘に毎日は行かない。でも、セーリングなら、毎日でも行けるようになります。何故なら、別荘には変化がほとんど無い。ほとんど変化しないものを楽しむには、そこに来て、なにが違う事をしなければなりません。つまり、ヨットに来て、毎回違う事をする。一方、セーリングは常に変化しますから、今日のセーリングはどうなるかと、いつものように出ても、毎回違う。違うものには追求する姿勢、もっと知りたい欲求、もっとうまくなりたい欲求が出てきます。これがしょっちゅうやりたくなる要因でもあるし、永く続ける追求的姿勢にもなる。何事も追求する姿勢が無いと、永くやり続ける動機にはならないと思います。ですから、90%のヨットが動かないというのは、動機が薄い、年に数回の使用を楽しんでいるかもしれませんが、面白いというレベルにはなっていないからだと思います。ヨットは楽しいだけでは、たいして使う動機にはなりません。面白くなくちゃヨットじゃない。

独自性と言っても、大きく違うわけじゃありません。同じように船体があって、マストがあって、セールがある。違うのは船体の大きさ、キャビンの大きさ、スタビリティーの違い、操作性、性能、そういう少しの違いです。でも、セーリングを求める時、少しの違いは大きく物を言う事になります。姿勢がセーリングに向かう時、見る所が違ってくるからです。その少しの違いを求めているわけです。それが大きく反映してくる事になります。

性能とはスピードというわけではありません。バランスの良さやスタビリティー、乗り心地やいろんな要素がある。いかなるセーリングを求めるか、ここに独自性を発揮する要素があります。レースするわけでも無いのに、スピード重視のヨットを求める。これも有りです。その分、面倒な操作をたくさんしなければなりませんが、それを楽しめるならOKでしょう。或いは、もう少し楽な操作でという事もできます。セーリングにもいろんなバリエーションがある。

人は楽な方が好きですから、ならば、楽な操作でセーリングにおける最大限のグッドフィーリングを得られる。そういうヨットはどんなヨットか。そう考えると、独自性がでてきます。この独自性を発揮しても、不安に思う事はありません。90%が既にあまり使っていないのですから。その仲間入りをするか、或いは10%に入るか。それだけの違いに過ぎません。

ヨットをおおいに楽しんで頂きたい。いろんな使い方があって、それを自分なりに楽しんで頂きたい。ほったらかしにはならないようにしていただきたい。それをするのに最高の手段はセーリングを独自性を持って実行していくのが最も良い方法かと思います。そこに楽しさだけでは無く、面白味を見出す事が不可欠ではないかと思います。そして、面白いセーリングをするには、自分の気持ちがセーリングに専心していなければなりません。そういう気持ちが無いといけません。そうやって乗りますと、もっとこうならないか、シート引く位置がこうの方が良いとか、もっと走らないかとか、もっと上らないかとか、いろんな事に気づいてきます。その工夫が面白さを増幅していきます。動けば良いで満足できるのは初心者の頃です。それから先は工夫が必要です。そうしたらいろんな事が解ってくる。セーリングに専心して、自分が気になる所、それが独自性です。それで、その独自性を追求していったら、面白いに違いないと思います。でも、専心しないと、何も気づかない。そうしたら面白いという次元には至らない。せいぜい、初心者の頃、動くだけでも楽しかった。それ以上になると面白くもなんともなくなります。ですから、みんな、どこか遠くに行きたくなります。でも、なかなか行けません。ですから、動かない。

デイセーリングはそれを一気に解決する方法です。セーリングに専心して、独自性を発揮して、おおいに面白いセーリングを追及していく。日常にセーリングを楽しんでいるからこそ、いろんなバリエーションも楽しくなります。今日は時化てるから出無い。そういう時でも、普段出てない人とは気持ちが全く違うと思います。

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