第一話 近未来

キャビンヨットは限界に近づきつつあるのではないか?そういう疑問を持っています。10数年前までは、プロダクション艇も今程キャビンはでかくなかった。フリーボードももっと低かったし、当然ながら重心も低かった。それが一巡すると、造船所はさらに販売を拡大する為に、少しづつデッキを高くし、キャビンを高くして、内装の拡大を図った。これは各社競争のように拡大の一途をたどっている。その一方、バラスト比は低くなりスタビリティーはもっぱら船体の幅によって持たせようという意図か?また、上下のバランスの為にかマストは低くなってきた。工法も簡素化され、そのお陰で、価格はむしろ安くなっている。

ある時、あるオーナーはその大きなキャビンを見て、そこまで必要か?と一言漏らされた。かつての30フィートはもはや今の30フィートとは比べようも無い。3年前に建造された40フィートが、今年の37フィートとあまり大きさが違わない。そこまで必要だろうか?ヨットがセーリングしないようになって、キャビンの大きさのメリットはある。しかし、それではますますセーリング離れになってしまわないか?ここに、キャビンヨットの限界があると思います。でも、ひとつだけ、マスプロダクションの大きな顧客はチャーターヨット会社なのです。彼らは5年毎にヨットを買い換えると聞いた事があります。そして、従来のヨットは中古市場に流れる。チャーターヨットにおいては、見かけが良くて、安ければ良い。快適キャビンの方が客は喜ぶ。

ある小規模造船所はメインの対象顧客は個人ユーザーである。と言い切った。個人の客がヨットを買うというのは少なからずヨットに詳しく、こだわりがある。チャーターの顧客とは層が違う。チャーターヨットが大きな市場とはいえ、個人客も無視はできないだろう。でも、チャーター会社が望むヨットの形態、それはどうしてもはずせない。

こういう流れを見ても、ヨットの変化が解る。かつてはセーリング主体だったのが、それがキャビン主体になってきた。チャーターヨットはそれで良かったが、個人客は”そこまで必要か?”という言葉に象徴されるように、もっと何か他に無いのか?そういう疑問も沸いてくる。そういう人達は既に市場には外洋艇と称するヨットがある事も知っている。しかし、別に外洋に行きたいわけじゃない。
キャビンヨットでは無く、セーリングするヨットが望まれる。

おりしも、自分も年齢を重ね、またクルーを確保するのも一苦労、もっと簡単にひとりでも動かせて、キャビンヨットじゃない、セーリングヨットはないか?低い重心、ショートハンドかシングルハンド、そういうヨットはないか?ヨットに泊まるとか言う事を考えると、いろんな装備を設置しないと快適さを享受できないが、泊まらないなら、泊まっても、良い季節の時限定なら、しかもせいぜい1泊なら
さほど必要な物は無い。

キャビンヨットの限界に対し、こういう顧客の要望は新しいジャンルを生み出す。それも個人の顧客なのでマスプロダクションは不向きとなる。そこで出てきたのがデイセーラーです。小規模の造船所が、次から次にこのデイセーラーにとりかかっています。特に、個人向けの外洋艇を建造していた造船所に見られます。これからはこのデイセーラーが大きな役割を果たすようになると思います。しかし、あくまで対象は個人オーナー、チャーターは対象外、そうなると数の面で言えば、相当大きな市場を個人市場において獲得する算段が無いとマスプロダクションの出る幕は無い。

欧米では大きなヨットからの買い替えで、こういうデイセーラーに、サイズダウンしたりしています。
サイズダウンしただけでは面白く無いので、やはり存在感のある美しいヨットが求められる。そうすると、品質の良さ、見た目の美しさ、キャビンが広いからという理由は全く必要無いが、それに代わって、帆走性能、スタビリティー、美しさ、品質、操作性などが重視されてきている。ですから、価格的にはマスプロダクションより高い。でも、40フィートに乗らなくても良いから、高品質の30フィートでスイスイセーリングしたい、そういう要望が増えてきている。もはや遠くには行かないので、サイズで乗るより品質、性能、美しさ、そういう事が重視されている。

つまり、キャビンヨットはまだまだこのまま続くと思われますが、頭打ちではないか、これ以上キャビンはもう大きくできない限界にまで来ている。じゃあ、後は何をするか?一方、こういうキャビンヨット離れの方々も出てきている。まだまだ全体から見れば小数かもしれませんが、いろんな造船所が新しいデイセーラーモデルに着手してきているという点において、その未来の動向が想像できる。時代はここに来て変化してきています。

外洋に行く重装備などは不要だし、かといってキャビンヨットじゃ物足らない。セーリングしたいが、レーサーでは困る。もっと気軽に、安全に、帆走を楽しみたい。実にシンプルな基本的な欲求ではないでしょうか。住まうなら3LDK,4LDKと部屋がほしい。しかし、ちょっと来て遊ぶなら1LDKでも充分。簡単に言えばそういう事です。所有するのに、維持するのに気軽だし、帆走するのも気軽。それで遥かに面白いセーリングができるとしたら、遠くに行くだけがヨットじゃないと思えれば、こんなに良いヨットは無い。日常はまさしくデイセーリングだし、ちょっと仲間が集まって沿岸でのクルージングするにしても、難なくできる。もっともっと遠くへなんてさらさら考えない。

全ての方々がこういう考えではありません。でも、こういう人達が増えてきている事は事実です。私はこういうのを10年以上前から追いかけてきました。なかなか日本には定着できませんが、本当はこのジャンルは日本から出てきてほしかった。これだけキャビンヨットがあっても、多くは泊まったりしないんですから。でも、キャビンヨットの方が安いんですからしょうがないですね。でも、まあ、これからです。デイセーラーは日本人にこそ合う乗り方だと思います。

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