第八十七話 魅力

人を魅了する力。それはどこにあるんでしょう。もちろん、理屈では無く、感じる何か、人をひきつける何かです。それは性能が素晴らしいだけでは無い。何か不思議な力、エネルギーだと思います。何かが人をひきつける。どこか一点に集中して、その点において素晴らしい何かがある。それが強烈に光を放つ。そういうものかもしれません。そういう物に魅かれる人間も、その点において同じ波長を持つ。それは強烈では無いにしても、そこが突出していると言えます。

そういう物は、一点において光を放つ為に、欠点もあります。他の部分では劣っていたりします。しかし、その点だけは群を抜いているものです。平均的に何でもこなす物というのは、いろんな使い回しができます。でも、魅力としては強烈な光というわけには行きません。でも、おしなべて平均的で、欠点も少ない。つまり、無難なのです。大衆は無難を好みます。ですから、平均なのです。

一点の光は、強烈な個性ですから、大衆はそういう物を選ばない。強烈な個性はリスクが高いと思ってしまうからです。強烈な個性が自分に合えば、それ以上無い最高を味わう事ができます。でも、合わなければどうしようも無くなる。確かにリスクは高い。どっちを選ぶも自由です。それは自分が決める事です。

ただ、ヨットに関して言うならば、ヨットは遊びオンリーですから、平均的な遊びか、強烈に面白い遊びか、同じ遊びなら多少リスクを背負ってでも、自分の持つ個性に従ったらどうかと思いますね。人には選択のパターンがあります。それは自分の性格に応じた選択をする。その選択が満足だったならそのまま継続していけば良いし、そうでもなければ、ここは一発、冒険してみる手もある。どうせ遊びですから、自分を魅了する何かに気づく。人がどんな選択をしていようが、自分はどうか。
それができるかどうかも自分の性格という事になる。でも、何かに出会った時、一変してしまう事もある。誰でも、個性を持ちますが、それまで自分を魅了する何か、波長の合う何かに出会っていなかっただけかもしれません。それがある日、何かに突然魅力を感じてしまう事がある。元々あった何かが刺激を受ける。つまり、環境はその人をあきらかにするという事になります。

万能なヨットはどこにもありません。魅力を理屈で語る事もできない。でも、ある日、何かに魅力を感じたならば、そこを追求しない手は無い。そこにこそ自分の存在がある。それを阻む物は理性です。理性は自分自身では無い。理性は世間体、損得、ここまで言うのは大袈裟かもしれませんが、素直に自分に従える人こそが、本当に遊べる人です。

造船所だって魅力を計算して出せるものでは無いでしょう。偶然のなせる技です。でも、その偶然を生み出すのは、デザイナーの思いや造船所のの熱意、結局は人の思いこそが魅力なんでしょうね。ヨットなんて何にも役立たない物ですから、遊びに過ぎないのですから、強烈に自分の好みを打ち出したとしても誰にも迷惑かけませんし、それが高性能だったとして、やっぱり何の役にも立たない。だからこそ遊びは遊びのままでいられる。これがちょっとでも何かの役に立つなら、ヨットはもっと普及するでしょう。でも、遊びが遊びではなくなってしまうかもしれません。

お父さんが子供とキャッチボールをしたいと思う。それと同じように、子供とセーリングしたいと思う。これは同じ事なんですが、何故そうならないかは、お父さんが気楽では無い。ヨットに対して、構えているからだと思います。キャッチボールをするのに何も構える事は無いのに、ヨットは構えてしまう。それはヨットがその分身近になっていないからです。身近にするには、もっと親しむ必要がある。もっとヨットと付き合う必要があります。でもそうならないのは、そのヨットに魅力をあまり感じていないからかもしれません。きらいじゃありません。好きなんです。でも、魅力を感じるのとは違います。何もそこまで考えなくてもと思うかもしれませんが、遊びだからこそ、ヨットだからこそ、我侭が許される。でも、我侭をした事ないので、ストレートに自分には従えない。ここは一歩乗り越えて、自分の我侭に、魅力を感じる方に向かってみてはどうかと思います。リスクもあって、ちょっとどきどきするかもしれません。でも、それが面白いんです。どきどきしないヨットなんて魅力が無い。魅力が無いヨットはいずれは乗らなくなるのがおちです。

りっぱなヨットがあります。でも、あっちこち汚れて、ステンレスには飛び錆びがついて、オーナー不在という事がすぐに解ります。船底は汚れ、所々に鳥の糞が落ちてる。そのヨット、ボロかというと、元はりっぱな高級艇です。これじゃいけません。ヨットは手がかかるもんです。それがうとましいならやめといた方が良い。手に負えないなら、手に負えるぐらいのヨットにした方が良い。理性で選ぶとこうなる事もある。理性はあてにならないんです。あてになるのは魅力を感じる感性です。

私が取り扱うヨットはみんな個性があります。魅力を感じたヨットです。ですから、大衆的にはならない。もし、これらが大衆的になる程売れたなら、それは魅力が無いからです。無難だからです。でも、そうはならない。本当はどんどん売れてほしいんですが?大衆は魅力では選ばない。個性では選ばない。無難で選ぶもんだと思います。それが悪いとは言いません。私は車は無難で選びます。車は役にたつものだし、趣味でも無い。ですから強烈な何かを求めているわけではありません。
でも、ヨットは遊びですから、個性で選ぶ。魅力で選ぶ。その方が面白いからです。本当に楽しもうと思って、突き詰めていくとそうなってくるんだと思います。是非、ヨットをほったらかしにならないようにしていただきたいと思いますね。

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