第八十六話 デイセーリングこそ面白い

雑誌を見ると、レースの話題かもしくはロングクルージングの話題ばかり、レース三昧の人達には良い、ロングに行く時間のある人は良い。でも、多くの人達はそのどちらでも無いという方が多いのではないだろうか。或いは、年に1回、ちょっと足を延ばす程度という方々も含めれば、もっと多いに違いないと思うのですが、いかがでしょうか。ロングかレースがヨットの醍醐味で、それが最も面白いのなら、多くの人達はその恩恵の外に居る。それで、たまに出ては、ロングに行きたいなあと思いながら、のんびりセーリング、酒でも飲むしかない。おしゃべりに興ずるしかない。宴会でもするしかない。そんな馬鹿な。

まあ、確かに、雑誌としては記事にはしにくいのかもしれませんが、デイセーリングの醍醐味について、何とか記事を書いていただきたいものです。もっとこのジャンルを盛り上げていただきたい。そして、多くのオーナー達に、それも有り、それも面白い、それはエキサイティング、それはスポーツ、それはヨットのエッセンス、そういう印象を与えてもらいたい。それがセーリング基本であり、誰でもできるヨット遊びの基本、そういう風になってほしい。でも、まあ、確かに記事にするには、あまりに抽象的ではあります。結果が出無い。どこどこに着くという事もなければ、勝ち負けも無い。
そうですね、記事にはなりませんね、残念ながら。

テレビの視聴率重視と同じかもしれません。面白くなければテレビじゃない、と誰かが言いましたが、視聴率上がらなければテレビじゃ無い。面白くなければ雑誌じゃない。

デイセーリングは極めて孤独なスポーツかもしれません。シングルを薦めてますから。デイセーリングで行くセーリングはピクニックになりがちですから。孤独でやるスポーツというのは、他にあるだろうか?ロッククライミングなんかは似ているような気がしますね、やった事ありませんが。考えてみれば、他にはあまりありませんね。ゴルフだって振る時は一人でも、仲間と回る。ボーリングも野球もサッカーも、武道の剣道だって相手が居ます。そうそう、釣りは一人でやる人も居ます。考えてみればマイナーですね。集団でやる方が楽しそうです。

シングルというのは、これとはまた別の次元です。ここで、シングルをぐっと持ち上げてみましょう。シングルという場合、もっと感覚的であり、精神的でもある。自分の世界をぐっと掘り下げる乗り方でもある。そういう意味では他の乗り方と一線を画すかもしれません。それは楽しいという快楽的より、もっと深いスリリングな面白さ、それを感じる自分を楽しむ。感覚を楽しむ、もっと内的な遊びかもしれません。浸るという言葉が合ってるかもしれません。でも、この感覚には他では味わえないスリリングな感覚がある。それを楽しむ自分との遊びかもしれませんね。うまく言えませんが。仲間と集う楽しさもありますが、こういう一人になって、何かを追求する遊びには、何かピンと張り詰めた緊張感を感じます。そして、たまにですが、何とも言いがたい、無心の感動がある。感動は後で感じるものですが、その時は無心。息を呑むような、そんな感覚になる事がある。それは仲間とおしゃべりしている時には無いし、レースで今勝ってるかどうかと考えている時も無い。無心になった時、今目の前にある事に集中している時、頭脳が動いていない時、そんな時に、古い言葉ですが、たまらなくしびれるような感覚がある。セーリングハイなんでしょうね。これは面白い。また経験したい。そう思います。

ひとりでやるスポーツはどうなんでしょうか?できれば仲間と一緒にと思うのが人情かもしれませんね。それは兎も角、まずはデイセーリングをもっともっと充実させていただきたい。それが面白いという認識が出来上がれば、ヨットはもっともっと流行るはずだと思います。デイセーリングはセーリングするだけです。ヨットでセーリングするのが面白くないなら、ヨットなんてつまらんものです。
セールがレースする為なら、クルージングはつまらん。セールを外洋に行く時しか使わないなら、
コースタルもつまらない。でも、多くの方々がやっているのはデイセーリングからコースタルです。
そのうち、セーリングを最もするのがデイセーリング、となると、デイセーリングはセールを使った最も面白い乗り方でなければなりません。そうでなければ、ヨットなんてやれんのです。

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