第六十三話 ヨット人口

若い世代のヨット人口があまり増えてこない。それはクルー不足という現象からも明らかでしょう。おまけに、平均年齢は上がる一方、ならば、これからの団塊の世代をいかにヨットに引き込むか、という事もひとつの方法だろう。でも、みんな年齢が高い人達ばかり。あと10年もすれば、一体どうなてしまうか。ヨット人口をどんどん増やし、永く続いていくには、子供達へのヨット体験というのが必要かもしれない。でも、現実的なところで話をすると、今の子供達がヨットを買う年齢になる時には、我々はもはや存在していない。

それにしても、何故、ヨットに若い世代が来ないのか?最大の理由は、現オーナー達がヨットを楽しんでいないからではないかと思います。今、ヨットを所有しておられる方々が、どんどんヨットを楽しんでおられたら、若い人達も興味を持つのではないかと思うのです。彼らは興味が無いわけじゃない。海の日とか、そういう時のイベントとして、そういうチャンスがあると、結構応募は多い。もちろん、金銭的な事もあるだろう、でも、クルーになって、ヨットに乗る事はできる。

レースをする以外、どんな遊びをしているのか。そのあたりに原因はあると思います。何人かの仲間を集めて、或いは家族で、ヨットを出航させます。セールを上げて、エンジン切って、帆走開始。
そこまでは良いんです。この先スポーツするか、ピクニックするかです。そして、大半はピクニックになります。飲み物がみんなに配られ、そのうち弁当が配られる。或いは、どこかに上陸して、その島の食堂でお昼です。仕事の話、社会の話、子供の話、趣味の話、とりとめも無く続く話で、時は過ぎる。そこに初めてヨットに乗せてもらった人は、爽やかな風と、優雅なセーリングに、日常とは違う世界を見る。でも、30分も続けば良い方かもしれません。それから、1時間、2時間と同じような状態が続く。一体、何が面白いのか。そんな質問をしてきた人も居ます。

ヨットの周りは海、行き交う人も居ない。見える物は海と島。そして、自分達が乗ったヨットと仲間達。そこで交わされる会話。確かに、ヨットはセーリングしています。でも、時折するタッキングなど、
時折みかける魚の群れなど、そういう事以外にたいして変化は無い。感心は話題に移る。時事問題で意見を交わす。これなど、桟橋につけたまま、コクピットで宴会しているのと、どれだけ違うでしょう。ほんのたまになら良い。ピクニックには、ほんのたまにしか行かない。

陸上に居たら、いろんな事がある。行き交う美人のお姉さん。レストランもあれば、本屋もある。ちょっと立ち寄って、興味あるショップでいろんな物を見る。いろんな遊びと、都会には刺激もある。
うまくすれば、誰かに出合う事もあれば、その気になれば、ちょっと車を飛ばして、シャレたCAFEにもすぐいける。居酒屋で仲間と、時事問題で意見を交わしながら酒を飲む。ちょっと一声かければ、すぐに御代わりが来る。

ヨットに乗れば、場所が違う。環境が違う。でも、やってる事は大きくは変わらない。人は冒険を楽しむ。陸上に居ても、何か面白い事はないかと探している。環境の変化は、その面白いという要素を少しは持っているが、それも延々と続くわけでは無い。狭いコクピットの中で、する事は限られてくる。コクピットで何をするか。そこが問題でしょう。話をするか、飲み食いするか、それとも?

どこかにアンカー打って、海水浴すれば、その一日は楽しい。島に渡って、飯でも食えば、その日は楽しい。みんなで酒飲んで、クルージングすれば、その日は楽しい。それじゃ、明日もやりますか?そうは行かないので、今度はちょっと遠出をしよう。朝出て、夕方にはどこかに入る。エンジンで走る。目的地に着いたら、観光、島巡り、温泉。楽しい日になります。でも、来週また同じ所にきます?同じところじゃ面白く無いので、方角は変える。じゃあ、その次は?

これらは、それなりに楽しい。でも、これらはヨットの持つ付加価値だろうと思います。では主は何かとなりますとセーリングに他ならない。セーリングを真剣にすると、変化が現れる。どんなにやって走るか、操作、動き、そういう物をスポーツする。それは刺激にもなる。陸上では絶対味わえない刺激です。不思議な事に、初めて乗った方でも、そういうスポーツを体験すると、また乗りに来る人は多いと聞きます。ピクニックセーリングでは、またお願いしますと言いながら、殆ど来ない人が
多いそうだ。

何も、彼らを楽しませるのがオーナーの目的では無いが、自分がどうやったら楽しいのか、心躍るような楽しさが体験できるのか、もう一度考えた方が良いと思います。ヨット人口が増えるには、今のヨットオーナーが、自ら楽しむ事ではないかと思います。そして、楽しいを面白いに変える方法は
セーリングにあると思います。それは優雅さや爽やかさや、そんな良い事ばかりでは無い。波のスプレーを浴びたりする事もある。スリルもある。危険もある。その中にエキサイティングもある。面白いは、レベルはそれぞれだとしても、全てを引き受けるところにあると思います。これはとっても刺激的で、陸上の刺激とは比べ物にならない。その刺激が気に入るか、要らないか、それだけでしょう。気に入ったひとだけが、ヨットの仲間入りをする。さて、その割合はいかに?

ヨットという非日常的な乗り物に乗って、海という非日常的な環境で、陸上と同じ事をしてたんでは、面白さは半減してしまいます。ヨットでしかできない事をする。ただセールを上げてるだけでは不十分で、意識をセーリングにおいてはじめて成り立つものだと思います。それは非日常の最たるものではないでしょうか。人は変化を求めています。その変化は冒険です。それで、毎回、プチ冒険をする。それが変化、それも日常では味わえない変化、オーナーだからこそできる変化、ヨットを最大限に利用する方法はセーリング。それさえしておけば、ヨットの殆どは使いこなしている。後は、その息抜きみたいなもんです。息抜きが主役になったら、面白くは無い。ヨットの何が面白いんですか?という質問をした方、ヨットは面白いものでも、面白く無いものでもありません。ヨットはただのヨットです。物です。ハードです。それをどんなソフトを使って扱うか、それが面白いか面白く無いかになります。それは乗り手次第という事になろうかと思います。

手っ取り早く面白くするには、レースに参加する事です。でも、これも、そのうちちょっとやそっとでは勝てない事が解ります。最初は順位なんか気にしないにしても、続けていきますと、やっぱり気になる。すると艇そのものからそういうレーサーになって、クルーを確保して、練習もしなければなりません。それはそれでOKなのです。でも、そこまでは、という方は、ピクニックに戻ってはいけません。今までと同じになります。ですから、やっぱりセーリング、緊張を伴うセーリング、スポーツセーリング、自分なり、マイペースで良いんですから、いかに走るかを考えてはいかがでしょうか。

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