第六十一話 頭脳の遊び

大の大人を満足させるには、それだけの魅力が必要です。その最大の魅力とは何でしょうか?ただ面白、可笑しいだけでは、一時的なもの終わってしまうでしょう。底の浅いものになってしまいます。大人を夢中にさせて、それを長く続けさせる為には、何か深いものが必要でしょう。

野球は日本で長く続く娯楽のひとつです。サッカーも人気があります。それらは、プロの鍛え上げた体力と技術だけなら、まだ浅い。でも、そこに知性があります。技術を支える知性もありますが、バッターとピッチャーの読みがあったり、この場面でどうしたら良いか、野球を良く知り、そこに頭脳が働く。つまり、知的なゲームでもある。頭脳の遊びです。

体を鍛えるとか技術を身につけるなどは、頭脳の遊びをするうえでの材料ではないかと思います。体力と技術だけでは勝てません。そこに頭脳の介在があり、知的なゲームができてこそ、その遊びは深いものになると思います。その深さ無くして、何十年も続くとは思えません。知的ゲームをする為に体を鍛え、技術を身につける。世の中に長く続くものは、何でも、知的な面がなければ、飽きてしまうのではないでしょうか。

ヨットを知的に遊ぶ。これは長く続けるには必須ではないかと思います。セールは出せば走る。でも、いかに出すか、出すとどうなるか、いろんな艤装はどう扱えば、セーリングに効果的か、そういう知性を働かせる、知的ゲームであるからこそ、面白いのではないかと思います。それを支えるのが技術という事になります。

まずは頭脳が動きます。その頭脳のゲームを実行する為に、技術を得ます。その技術を実行するには多少の体力も必要です。そして、ヨットをやりますと感性も働きます。感性は鍛えるものでは無く、受け取るものです。頭脳ゲームをやって、そこから動きを感性で受け止め、それを頭脳に送り、頭脳は体に指令を送る。そうやって循環していく。この中のひとつでも欠けると、面白味は解らなくなるでしょう。

ただ、漫然とセーリングしているのは、頭脳のゲームが無い。ただのんびりしたい時などはそれでも良いでしょうが、でも、堪能するには頭脳が動かなければ面白味に欠けてくる。ですから、日常のデイセーリングでは、頭脳を働かせて、感性を鋭敏に集中させておく必要があると思います。その緊張感が、面白いセーリングをもたらせてくれる。遊ぶのも楽じゃないんですね。積極的にそこに向かっていかなければなりません。でも、遊ぶというのは、その方が面白いはずです。

スポーツはみんな頭脳ゲームが深いほど面白い。そして、そこに感じる何かがあれば、もっと面白くなる。感性が働くから、頭脳ゲームが面白くて、感性ゲームは感動をもたらしてくれます。ヨットにはその全てがあります。さらに言いますと、恐怖感もあるし、躍動感もあるし、スリルもあります。野球やサッカーが流行ってるとはいえ、それらにはヨットのような恐怖感は無い。これを拒否するという手もありますが、これらいろんなものをうまくコントロールして、遊ぶスポーツは他には無いんじゃないかと思うぐらいです。

そんなヨットの特性をうまく扱う事は大人の遊びとしては最高じゃないかと思うのです。ヨットは危険性と隣り合わせの部分もあります。それをうまくコントロールするスリル感、よりスムースに走らせる為に頭脳を使い、それを実現する為に技術を使う。体も頭脳も汗をかく、そうやって感性は喜ぶ。そういうゲームをしますと、全てが面白くなります。前にも書きましたが、面白いというのは、良い事だけが起こる事では無く、良い事も好ましく無い事も全部まとめて受け取る事、良い悪いの判断をしないで、頭脳と感性で、その場をコントロールするところにあると思います。

最大のレジャーである釣りも、頭脳を使います。ただ、糸を垂れて、弁当でも食ってるだけじゃ、あんなには流行らない。彼らは、常に工夫しながら、いろんな事にチャレンジしながら、やってます。そういう事をすればするだけ、釣果にあらわれる。

ピクニックセーリングもたまには良い。でも、この頭脳ゲーム無くして、ヨットを長く続ける事はできないのではないかと思います。そして、そのゲームはデイセーリングでやるのが、最も面白いと思います。さらに言いますと、シングルでやるのが最も面白い。

チームでのセーリングはまた別の面白さもあります。チームが一丸となって、良いチームワークが取れた時、これはこれでも面白い。でも、個人が頭脳ゲームを日常的に楽しむには、シングルが最も面白いと思います。

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