第五十六話 セーリングを感じる

ロングに行くと船旅となります。エンジンで行く事が多い、風景を眺め、食事が楽しみになる。セールは一旦ある程度調整すれば、それ以上細かい事はあまりしない。舵はオートパイロットが担当します。これは船旅です。何時間も何時間もかけて走るのですから、いちいち細かいセールトリムや
舵なんかやっていられません。到着地でご馳走を味わう、温泉につかる。

一方、近場でのセーリングはエンジンは使わない、オートパイロットも使わない、舵を自分の手で握って、セールトリムを頻繁にする。そうしないと、ただのほんの短い旅で終わってしまいます。舵は切れば良いというものでは無い。どういうタイミングで、どのような速さで、どのくらい切るか、そういう事も考えなければなりません。セールはどうか、シートは出すべきか、引くべきか、トラベラーの位置はどうか、バングは、アウトホールは、バックステーは、そしてこれらひとつひとつが全部に影響を与えるのですから、これらの組み合わせは無限にあるわけで、その中から正解に近づけようといろんな事をする。そうしますと、その反応が船体の動きに表れ、それを今度は自分の感性が捕まえる。これらは面倒くさい事でしょうか?或いは、エキサイティングでしょうか?シート1本の操作で起こる変化を自分が感じられるというのはいかがでしょうか?これらの複雑な組み合わせを感じて、経験として積み上げていくわけです。それが少しづつ解ってきた時、誰でも面白さを感じる事ができます。知らなかった事が解るようになるのは、面白い事なのです。これが旅とは違う、ヨットのスポーツ性です。

ショートセーリングにおいて、旅をいつも持ち込むなら、面白味に欠けます。何故なら、風景は変わらない、行き先も無い、温泉も無い、ですから、ショートセーリングではセーリングをした方が良いのです。スポーツした方が面白いのです。どの程度までやるかは自分次第、その時の気分次第でも良いわけです。決して旅の良さを否定はしませんが、このセーリングの面白さをも忘れないで、真剣に取り組んでみてはいかがでしょうか?少なくともワンシーズン、セーリングをやってみてはいかがでしょうか?きっと、何かが発見できると思います。少しづつ、何かが解ってくる。その解ってくるという充実感が出てきます。そして、そのうちセーリングで走ってる最中に何とも言えない最高の気分が突如訪れる事があります。旅では感じられない、何かがあります。

それを一旦感じたら、もっともっとと思うでしょう。その為に、もっと頻繁に出られるように、シングルハンドになるでしょう、それに気軽に出せるヨットにしたくなるでしょう。もはや大きくなくても良いと思うようになるでしょう、大きなキャビンはかえって邪魔と思うかもしれません。ショートセーリングになったら、冷蔵庫も温水も要らないと思うでしょう。清水だって、フットポンプで充分と思うでしょう。でも、反面、セーリングにおいては、上りから下りまで、あらゆる角度で、いかに快適にセーリングができるようになるかを考えます。その為にスピン、ジェネカー、ファーリングジェネカーもある。そういう風に考えるようになる。そういう艤装をいかに自由自在に扱えるようにするかを考えます。最初はぎこちないかもしれませんが、段々慣れてくる。それが面白いんです。こうなると、ご馳走なんてどうでも良くなる。でも、冷たいビールぐらいは飲みたいですが。これはスポーツセーリングです。レースでも無いスポーツです。そういう世界は、誰でもできる、初心者でもベテランでもできるスポーツです。ですから、もっともっと流行るようになってほしいと思います。

結局、ヨットを出すという事は旅にするか、セーリングにするかの違いが出てきます。それぞれ乗り方、操船の仕方が根本的に違ってきます。旅において、細かい操作を何時間も続ける事はかなりしんどい事です。逆に、セーリングにおいて、旅のような使い方をしますと面白味に欠けてきます。
ですから、それらを、その時に合わせる必要があります。そして、それをもっと面白くするのは、それに合うヨットという事になるでしょう。

一般的に多いのは、通常はデイセーリング、そして年に1,2回のちょっと遠出です。少人数の1,2泊程度ならデイセーラーでもOKでしょう。これなら、日常のデイセーリングも面白い。でも、大人数やもっと長期になるなら、もう少し大きなヨットという事になる。どれを大事にするか、どれもこれもとなると、どれも中途半端で面白味にもう一歩何か足りないと感じたりする事もあるかもしれません。できるだけ、何をどうしたいかが明確にできるれば、それだけ楽しむ事ができるようになる。デイセーリングは旅向きではないが、日常のシングルでのデイセーリングには格別な面白さを感じる事ができるでしょう。

旅をどうしても切り離せないなら、沿岸主体の旅なら、セーリングを前提にしたヨットをお奨めします。それならキャビンも充分だし、日常のセーリングでも面白いものになる。本格外洋なら、また別の選択になるでしょう。前者ではイタリアのコメットをお奨めしますし、後者ならアメリカのセーバーがお奨めです。コンセプトがちゃんとしています。

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