第五十話 核家族

この言葉が出て久しい。今では殆どが親と同居は少ない。新しい家族をもって、子供ができる。時代がそうなのか、子供がそれぞれ部屋を持ち、携帯電話を、パソコンを、TVを部屋に持つ。そういう時代です。そんな時代にファミリークルージングと急に考えても、それは無理な話です。そういう事ができるのは、日頃から家族一緒に行動している家族でしょう。それでも、子供がついてくるのはせいぜい中学ぐらいまでと言われます。寂しいかもしれませんが、親からの独立性を思うと、それも良しです。つまり、ファミリークルージングを思うならば、子供が小さい時です。でも、大人がヨットで遊べるようになる頃は大抵、一部の例外を除いては、子供は大きくなってからです。

子供が大人になって、独立し、たまに帰ってくる。そんな時はまた一緒にヨットに乗れる。でも、こんな時はお父さんと子供の二人、ダブルハンドです。子供が何人居てもたいていはそうです。そして、子供がお父さん程ヨットに夢中になる事もあまりありません。子供はもっと刺激的な事に忙しいからです。自然に遊ぶのは、そういう刺激を卒業してからでしょう。

そうしますと、ヨットはファミリーというより、お父さんのチャレンジ、そしてたまに奥さんを乗せてあげる。或いは、大人になった子供を乗せる。たまにです。殆どはお父さんのチャレンジになります。
ここで大きなヨットを持ってきますと、クルーは外部からになります。

ここでシングルハンドを目指せば、たまに来る奥さん、子供、仲間、等々、いつでも対応できます。そして日常はお父さんの恰好のチャレンジを満喫する事ができます。そんな時、大きなキャビンが必要でしょうか?それがシングルハンドセーリングを邪魔するとしたら、どうでしょうか?

シングルでセーリングしますと、自分の操作が全てです。大きなチャレンジです。でも、その操作ひとつひとつが自分に帰ってくる。感じる事ができます。ヨットの面白さは自分が成長していく事を感じられるところにあります。舵の操作ひとつでも、その切り方、タイミングがあります。それによってヨットは違う動きをする。そういう事をひとつひとつ学び、実行し、進化していく。このプロセスに面白さがあります。それをもっとも感じられるのはシングルです。セールのトリミング、リーフ、学ぶ事はたくさんあります。面白いのは愉快だからばかりではありません。面白いのは学び、成長していく事、それを実感できる事ではないでしょうか。

大勢で、ワイワイガヤガヤ、向こうの島に渡って、観光、これも楽しいひと時です。でも、たまにしかこんな事はできません。たまにだから楽しいんです。愉快はたまだから良いんです。でも、日常では、成長するプロセスを感じずには続ける事はできない。ですから、日常はシングルにチャレンジして、たまに愉快なイベントを造る。大事なのは、イベントでは無く、日常です。

日常でシングルでセーリングしてますと、ゲストが来ても余裕で、楽しませる事ができます。前にも書きましたが、ゲストはセーリングの醍醐味を味わいたがっています。ただ、漂うように帆走して、飲み食いしてもたいして感動はありません。ちょっと真剣に走って、少しでもセーリングを味合わせてあげた方が、また乗りたいという気分になります。ジェットコースターじゃありませんが、少しスリルもあった方が面白いのです。キャビンが大きいから来るわけじゃありません。ゲストだって、非日常を求めています。大きなキャビンに座って、10分もすれば忘れてしまう。コクピットに出たがります。

一週間ヨットに泊まるなら大きな快適キャビンがほしいです。でも、1,2日ぐらいなら小さくても良い。小さい分、スタビリティーは良くなるし、風圧面積も小さくなる。普段のセーリングはこの方が良いわけです。まして、シングルなら。

是非、シングルでどんどん乗って、学んで頂きたいです。学ぶ事は面白い事です。今までわからなかった事が解った時、誰でも嬉しくなります。それは楽しいよりも、もっと充実した感覚ではないでしょうか。そして解った事を試す。それを実感して、体で感じる事ができます。シングルはそれなりにチャレンジでもありますが、全ての喜びを独り占めですね。そして、何度も言いますが、うまいから面白いんでは無く、うまくなる過程、学ぶ過程がある事が面白いんです。幸い、ヨットは頂点を極める事ができませんから、一生かかっても飽きる事の無い面白さを提供してくれます。自由自在にヨットを操船している自分を想像してください。これが夢です。お金さえあれば物としての夢は手に入れる事ができます。でも、自由自在セーリングは、実行した方しか叶えられない。それがもたらす意味は非常に大きいと思います。

これから団塊の世代と言われる方が引退されます。過去に全く経験無くても大丈夫です。60歳からヨットにチャレンジして、シングルを目指し、自由自在を夢に持つ。セカンドライフにはもってこいのチャレンジです。

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