第四十九話 外国企業

中古艇以外の新艇は全て輸入物しか扱っておりませんので、必然的に海外との取引が多くなります。それで、外国企業は日本企業とは決定的に違う所があります。それはアメリカでも、イタリアでもドイツでも、みんな同じです。

例えば、営業の部門、製造部門、発送する部門など、全部独立しています。こういう事があります。
営業部に何か部品を注文するとしましょう。それを受けた営業は、自分の手元にある資料で在庫を確認する。資料上あれば、受注して、発送依頼を出す。これで、営業の仕事は終わりです。
全てが完璧ならこれでも良いのですが、こちらはいくら待っても来ない。問い合わせすると、はじめて在庫が実際は無かったとか、発送係が出していなかったとか、そういう事がたまにあります。でも、担当営業は悪びれる事は全く無く、それは俺の責任では無いと言います。それで、2回目も同じ事をします。在庫は在庫管理者の責任だし、発送はまた別の者の責任です。日本人なら、少なくとも2回目からは、実際の在庫を確認するだろうし、発送も確実にしようとする。でも、彼らは、他人の領分には入ろうとしない。それで、我々は確実にする為に、確認作業をどんどんしなければなりません。発送したという言葉では不十分、運送業者からの受け取りを送らせる。これなら確実です。企業によっては、担当者によっては、かなりきちんとしている会社もありますが、そうでない企業も多い。

かつて、ドイツに行った時ですが、頼んだ物が来ない。たまたまそこに行く事になって、倉庫に行きました時に確かにあった。それを担当者に言いましたら、在庫の書類上無いと主張する。私は実際にこの目で見たと主張、それからすぐに物は送られてきました。担当者が倉庫に行って、実際、
自分の目で確かめるなんて事はなかったです。

自分の部門は自分で責任を取る、しかし、他の部門については手を出さない。そういう事らしいです。かつて、私の知り合いが外国で日本食レストランの立ち上げの手伝いに、しばらく行っていた事があります。従業員の食堂で食事をする。テーブルには食後の皿などがならんだまま、昼食になっても朝食の皿がそのままテーブルに置かれていた事があった。日本人はそれを片付けようとする。でも、その時、言われた言葉、それはおまえの仕事じゃない、その為に雇ったわけじゃない。そういう事だそうだ。また、それをすると、その仕事に雇われた人は不要になるとも言える。
営業が在庫にまで手を出すと、在庫管理者は不要になる。

海外と取引をしますといろんな事があります。しかし、彼らとて同じ人間ですし、気持ちが通じ合わせればうまく仕事が進むようになる。外国企業のやり方、日本のやり方、それぞれが長い歴史の中で出来上がってきたものですから、良い悪いの問題でも無く、歴史や民族が違い、考え方が違う
ただ、違うというだけです。そこを何とかするのが我々業者という事になりますね。

今回、イタリアから2名、職人さんがクレーム処理に来た。彼らにとって、造船所を代表してきたという発想は全く無い。ですから、申し訳ないですね、なんていう事はまったく無いんです。言われた仕事をしに来た。それだけです。でも、担当の仕事については良くやってくれました。イタリア人がこんなに働くとは思ってもみなかったです。そう言えば、昔ですが、イタリアのジェノバで出荷間際の艇のエンジンが不良になった事がありました。その時、徹夜して作業してましたね。やる時はやるもんだ。遊びと仕事、メリハリが効いて良いかもしれませんね。

外国の担当者とは仕事の事以外にも、プライベートな話を少しするようにしてます。夏休みはどうでしたか、とか、たわいの無い話です。そのうち、向こうから娘が今度結婚するとか、休みはどうだったとか、向こうからもたわいの無い話をしてきます。日本のマリン事情はどうこうとか、いろんな話をしながら、私はこう考え、だから御社のヨットを日本に入れたいとか、そんな話をします。クレームがあった時もお客様がどんなに気分を害されたかを話します。そうすると、人間ですから、気持ちは解る。そんな気がします。習慣も考え方も違う。しかし、物を造って、販売しているわけですから、そこにお客様がおられる。これは同じ関係です。いつもこちらの思うようにはなりませんが、担当分野を越えて、何とかしてやろうと思ってくれる場合もあります。日本の市場は非常に小さい、ですから造船所にとって、日本からの発注はわずかです。そのわずかな日本市場に耳を傾ける事はあまり無い。それが普通です。

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