第十八話 暴言

またまたでかいヨットが来た。そのヨットの2,3年前のヨットと比較しても、かなりボリュームがでかい。ヨットは長さで言い表しますが、これからは長さだけでは不十分じゃないか。縦と横にどんどん広がっています。この間来た他メーカーの新艇でもそのでかさにびっくりしましたが、今度のはそれに輪をかけてでかくなってる。キャビンの広さの競争をやってるように見えます。これからは、長さ何フィートのヨットというより、何フィートに対して何立方メートルという体積で表さなければならなくなるかもしれませんね。昔の同じサイズのヨットに比べると倍ぐらいボリュームが違うんじゃないかと思ったりもします。まあ、おかげで広々としたキャビンが実現します。快適です。さぞ、キャビンライフは楽しいでしょうね。セーリングなんかしなくても良いかもしれない。そんな辛い事するより、広々キャビンでのんびりしたい方にはうってつけです。

こういうヨットには、冷蔵庫はもちろん、冷凍庫、温水、冷暖房完備でなければいけません。できればバスタブなんかあると良いですね。シャワーばかりじゃ物足りない。料理には電子レンジも必要ですし、テレビ、DVD,ステレオはもちろん、食器洗い機とか洗濯機、乾燥機とかあれば快適そのもの、贅沢言えば、和室がひとつあると完璧でしょうね。こうなってくるともう家は要りません。ここに住めます。マリーナから通勤です。最高のキャビンライフがここにあります。

陸電は必需品になりますが、どうしても無ければ、発電機を積む事になります。これ無しでは快適キャビンはおくれません。エアコン、電子レンジ、バッテリーチャージャー、冷凍庫、温水、その他便利な家電グッズを使うので、最低5Kから8Kは必要でしょう。できれば陸電の方が良いですね。騒さく無いですから。発電機はたくさんの電気を使う為には大きな発電機が必要です。でも、夜寝る時、あたりが静まり返った時、これがとても騒さく聞こえてきますから、別にもうひとつ小さな発電機をつけて、できるだけ静かな夜を過ごす事ができるようになります。夜間用発電機をナイトジェネレーターと言います。まあ、陸電があれば問題ありません。

コクピットにはドジャー、ビミニトップ、そして、できればコクピットの周囲全部を透明ビニールで囲えるようにしておくと、冬には結構あったかいし、夏でも強力エアコンなら、結構涼しくなる。もちろん、窓もつけておきましょう。これなら、コクピットをダイニング代わりに食事なんかできます。まるで3LK+ベランダみたいです。夜寝る時は波の音がします。船体に波がピチャピチャあたる音。自然に囲まれて、快適な生活ができます。朝起きたら、爽やかです。マリーナには殆ど誰も居ない。静かな生活。釣りもすぐできるし、たまにはドボンと海に飛び込んで海水浴。静かに座って、夕日を眺めながらビール飲んで、テレビで野球中継を見て、完璧リゾート気分ですよ。それが毎日、リゾートですよ。

他に何が要るでしょう?そうそう、炊飯器が要りますね。日本人ですから米がほしくなる。コーヒーメーカー、たくさんの本も置いとかないと退屈な時に困ります。新聞はどこかで散歩がてら買ってくるとして、もう無いですね。こんなもんですかね。何か便利な物他にないでしょうか?最近がDVDレンタルが流行ってますから、退屈な時は映画鑑賞、楽器やる人は持ち込んでも良いですね。

たまには友人を招待して、パーティーを開く。冬なら鍋、夏は夕方から焼肉?キャビンでやると臭くなりますから、桟橋でやりましょう。後片付けは大変ですから、奥さんを手伝ってあげましょう。せっかくリゾートですから、そうでないと奥さんにとっては家に居る時と変わらなくなります。

さあ、明日は何しましょうか?

キャビンが狭いヨットに乗っている人はこういうキャビンライフはおくれませんね。エアコンなんか無いし、へたしたら、冷蔵庫なんて物も無い。キャビンでゆったり時を過ごすなんて事は暑くてできません。それで工夫しなくちゃいけません。風を取り入れるとか、冷蔵庫無いから、氷買ってくるとか、温水出無いので、冬はシャワー浴びれませんね。そのシャワーさえ無いかもしれません。
まるでホテルとテントぐらいの違いでしょうか。

世の中が発展しますと、便利な物に囲まれて、それが当たり前ですから、それらがちょっと欠けるだけで大きな不快感を覚えます。気がつくと、みんな自然にそうならされている。ちょっと昔なら、無いのが当たり前だったので、それなりに自然に過ごす事ができました。でも、今はそうは行かない。無い事は辛いことになってしまった。快適であると同時に辛い事も増えた。こうなると発展は必ずしも良い事ばかりではありません。でも、世の中そうなってるんですから、ならば、個人的遊びはできれば自然に近い方が快適では無いが、心地良さがでてくるかもしれません。安らぎがあるかもしれません。そうやって、バランスをとると、もうちょっと生活リズムにも余裕がでてくる事もあるんじゃないかと思います。

快適を追うギチギチの心は、セーリングも快適でなければなりません。でも、こればっかりはどんなに世の中が発展しても、雨を風を波を止める事はできません。ですから不快なセーリングになる。でも、それもまた良し、と余裕ある気持ちがあれば、これもまた良しとなる。ヨットという不確かな物は、その程度で付き合わないと乗れません。その代わり、最高のセーリングも味わえます。
快適を追えば追う程、セーリングはできなくなる。何故なら、セーリングは快適の反対側にあると思うからです。その代わり、エキサイティング、スリル、冒険性、そういう物がセーリングにはある。追う物が違います。不便を受け入れると、今度は面白さが顔を出す。

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