第百話 考え方

各人が特有の考え方を持っています。それは遺伝的な性格と、その後の体験による影響で作り上げられた性格、実際は体験はその人が本来持っていた隠れた性格が表面化したものと思いますが、いずれにしろ、そこから生まれる考え方が全てを支配していると思います。

仕事に対する考え方、遊びに対する考え方、そういうものは固定観念かもしれませんが、それを変える事はなかなか難しい。何か衝撃的なきっかっけを要します。衝撃的とは言っても大事件であるとは限らないです。本やテレビや何かの情報を得る事によって、なるほど、そんな考え方もあるのかと思う人は思う。多くの異なる考え方に触れるというのは、自分の考え方を新たに認識するのに役立ちますし、また、考え方を変えるきっかけにもなります。

どんなヨットが良いか?という大きな質問は、どんな考え方が自分のスタイルに合うかという事だろうと思います。考え方の違いの数だけ、良いヨットの種類がある事になります。考えてみれば、現在市場に受け入れられているヨットはみんな良いヨットという事になります。スタイルが違う、それぞれの考え方にどこかしら合う所があって、購入されていく。それは見た目のデザインかもしれませんし、強度、質、価格、サイズ、性能、等々、何がしかの要素が受け入れられたという事になります。それらは全て、その受け入れられた点において良いヨットと言う事ができます。

或いは、解らずに、何となくという事もあるでしょう。みんなが持ってる同じヨットなら安心という人も居るでしょう。でも、ヨットという代物はちょっとやって、つまらなくなったら押入れに入れておくというたぐいのものではありません。そこにあれば、いつまでも係留費がかかるし、しかも半端じゃない。
維持費もかかる。ですから、最低でも10年は乗るつもり、もちろん皆さんが最初はそういう気持ちだったと思います。では、その最低10年間という期間に、一体どんなヨットライフを想像したでしょう。そして実際やってみた時と同じだったか、或いは、想像とは違ったか?
想像通りなら何も問題は無い。しかし、想像とは違っていたら、そのヨットはだんだん使われなくなる。そして、私が見る限り、かなりのヨットのオーナーが想像とは違っていたと考えられていると思うのですが、いかがでしょう。想像とは違うと明確に解れば、まだ良い方です。ただ、何となく、ヨットに乗らなくなってきた。そういう方が多いと思います。気がついたらそうだった。何故か?

何故、昔のように乗らなくなったか?単純に自分のライフスタイルと合わなくなってきたという事でしょう。自分のライフスタイルはどうなのか?仕事との関係、奥さんとの関係、家族との関係、時間との関係、仲間との関係、自分を中心に、回りにたくさんの関係がある。その関係をどう考えるかが自分のスタイル。そのスタイルの中で、ヨットとどういう関係を結ぶか?

日本人の考え方、仕事や余暇、家族との関係から言って、外洋に行ける人は少ないだろうと思います。沿岸でもロングに行ける人は少ないだろうと思います。最も多いのは近場の範囲しか行けない。いろんなしがらみとか、それこそいろいろありますから、それをみんな割り切って、ポンと出れる人は少数だと思います。先進国の欧米であっても、遠くに行く人の割合いは実際は少ない。多くの人達はマリーナの中か、或いは、近場での範囲でしか行動していない。つまり、それが最も多い、一般的な使われ方と考えて良いと思います。

それでは、その近場でどうやって遊ぶのが面白いのかという問題になります。欧米人はヨットに住まう事を含めて、マリーナで過ごす、社交場としての使い方があります。これには、日本人はなかなか合わない。1日ヨットで過ごす事はできても、2日、3日とマリーナで過ごせる人は少ない。それに
海外と違って家族が来ない事が多い。決まったクルーを確保する事も難しい。

選択はふたつです。家族かクルーをできるだけ誘って、出せる日を作る。或いは、シングルハンドで出せるようにしておく。この二つです。前者は必然的に出航回数は減るでしょう。でも仲間が来た時の楽しさはあるでしょう。後者は誰にも左右されない乗り方です。仲間が来ても、来なくても楽しめる乗り方です。ただ、ここでひとつ問題があります。大きなヨットに乗りたい方が、シングルを同時に確保しておく事が難しいという事です。不可能ではありませんが、相当慣れる必要があります。仮に、慣れてきたとしても、一人で気楽に出すという所まではなかなか行かない。それに昨今の大きなキャビンを持つヨットであるなら、尚更難しくなります。

それで、出航回数を減らしてでも、大きなヨットを確保するか、或いは、サイズを落として、シングルでも気楽に出せるようにするかです。それも最低10年は続けるつもりで考えて下さい。前者の場合、出航回数が減ったとしても、例えば月に1回でも、出れば良い方だと思います。それも、天候で中止になったり、いろいろありますので、それでも月1はましな方でしょう。

一方、シングルの場合、自分の都合次第ですから、その気になるなら何回でも出せます。また、大人数になりますとどうしても1日をフルに使いたくなりますが、シングルなら半日でも出せる。気楽さが根底にあるからです。そして、仲間が来ても、同じように楽しむ事ができます。

ニ、三人で乗る時は結構セーリングが楽しめます。でも、人数がもっと多くなるとたいてはピクニックになります。近場でのセーリングの場合、ピクニックばかりじゃ飽きてきて、それこそ招待する人を変えていかないと面白味に欠けてくるかもしれない。或いは、同じメンバーでもピクニックから脱して、ちょっと本気でセーリング自体を楽しむかです。シングルの場合でも同じですが、近場ですと旅では無いので、セーリング自体を楽しむという方向に無いと、ヨットに深さが出てこない。そうなるとマンネリになり、飽きてくる。呼ばれたゲストも飽きてくる。最初は良いが、どうせなら陸上で宴会していれば、いつでも帰れるし、また場所を変える事もできる。ヨットの上では、そうは行きません。
ですから、ヨットが面白く無いといけません。それにはセーリングが一番なのです。意識が宴会から
セーリングに行く事によってのみ、セーリングはヨットじゃないと体験できませんから。

それで、ヨットはセーリングをいかに楽しむか、シングルであっても、クルーが居てもです。旅は行き先が目的ですから、ヨットはセーリングしなくても良いんです。でも、日常の近場はセーリングしないと面白く無い。

それで大半の方はセーリングを楽しむ事中心に考えた方が良いと思います。それなら、いかにセーリングするか、そういう事を考えます。いかに面白いセーリングをするかです。そういう目で見た時、今のクルージング艇はちょっとどうかなと思う所があります。セーリングの面白さより、操作においていかに楽であるか、或いはあまり操作しないという前提か、どちらかと言うと、旅向きではないかと思います。日常に使うというより仲間を集めた旅向きかなと思います。或いは、住まい向きです。それにシングルでやるのも、昔より難しくなっている。

それで、お奨めはセーリングが面白い、シングルでも操船できるヨット、そういう結論は私の考え方
です。コメット33のオーナーはシングルでも乗られます。そして、仲間が来た時はそれなりに、臨機応変な乗り方で楽しんであります。もっとシングルをつきつめて行きますと、アレリオンになり、ノルディックフォークになっていきます。もうここまで割り切れますと、実に愉快です。

大きなヨットはクルーを要する。クルーがおられる方にも、本当はロングに行かない時は日常セーリングを楽しむ。外洋に行く人はエンジンなんて使えませんから、やっぱりセーリングします。ヨットにはセーリングが必要なのです。セーリングしてこそヨットなのです。これが私の考え方です。
ただ、日常でのセーリングと外洋でのセーリングはちょっと違います。日常セーリングは操作して、反応を楽しむ。外洋セーリングはあまり操作しなくても、真っ直ぐ走ってくれるとかです。ですから、
例えば、日常セーリングを楽しむヨットはメインシートのトラベラーはコクピットにあった方が良いと思いますし、外洋ならキャビンの上でも良いかなと思います。

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