第八十七話 観察と理解

物を見る度に、良いとか悪いとか批評してしまいます。もう癖になっています。それを何にも評価せずに、ただ観察して、そのままを理解するとどうなるか?これは先入観が入らない事になります。そうする事によって、その本質が理解できるのではないか?

あるヨット、ブランド名を聞きます。するとそこにそのブランドに対するイメージが沸いてきます。それは過去に見聞きした事、体験した事などから、あるイメージが沸いてきます。そして自然に良いイメージとか悪いイメージとかが頭に浮かぶ。良いイメージ持つと良いところを探そうとし、悪いイメージを持つと悪いところを探そうとする。すると、本当のところは客観性に欠け、主観的に評価を下す事になります。そういう意味では、脳による思考は、あまり良いとは言えない。

何事も完璧は無いので、何を探すかによって、良いも悪いもある。そこで、思考を止めて、観察する事に専念する。決して評価はしない。そして観察しながらセーリングもする。そこでも評価はしない。ただ、観察した事実がある。何ノットの風で、何ノットのスピードが出たか?スタビリティーや操作性や、いろんな事をただ観察して、感じて、評価をせずに、そのまま理解する。

するとどうでしょうか、そのヨットの事がそのまま理解できるのではないでしょうか?

或いは、ヨットを見て、自分が心に感じたイメージを、どんなイメージを自分は心に持ったのか?と意識してみる。そして、人事のように、自分が持ったイメージを意識してみる。そこに理屈は無く、好印象を持っているな、或いは悪印象を持ているな、と意識がそのままを理解する。つまり、自分の心の動きをそのまま観察して理解する。

こういうやり方は実は簡単では無いようです。でも、そうやって意識できれば、本音で自分に合うヨット、自分のスタイル、遊び方などが、解ってくるように思います。一般的にポピュラーなヨットとされるのが、自分には合うのか、合わないのか?理屈を考えれば、いろんな理由を挙げる事ができますが、本来は理屈では突き止められないのが人間の感性ではないかと思います。面白いと感じる事は理屈抜きにそう感じるわけです。

そうする為には、観察と理解を意識して実行してみる。自分の心の動きを、意識して観察してみる事が大切かもしれません。デイセーラーを旅の視点で見ますと、あまり良いところは見つからないかもしれません。でも、ここで重要な事は、自分が旅の視点で見ているという事を意識して解る事でしょう。すると、自分の本音が見えてくる。ヨットの本音も見えてくる。この本音は良いか悪いかでは無く、自分と合うかどうかです。良い悪いよりも、自分と合うかどうかが解った方が良いと思います。

この事はセーリング中にも、良い悪いでは無く、自分がどう感じているかを意識する。常に観察して、そのままを理解する事ができれば、本質が解るのではないかと思います。保証はしませんが。
つまり、頭脳は分析して理解しようとしますが、心は感じて理解しようとします。頭脳は完璧ではありませんが、心は案外、頭脳さえはいりこまなければ、自分の事は解っているのではないかと思います。そこに頭脳が入るから自分の事さえも解らなくなるのではないか?多分。

そういう判断の仕方は通常ではありません。理屈で考えれば、クルーが居るとか居ないとか、これがあれば便利だとか、家族や仲間を何人まで乗せられるかとか、いろんな理由を考える事はできます。このヨットなら、どこまで行けるか、このヨットなら何ができるか?シングルハンドは可能か?
しかしながら、本音はそんなところには無いのではないか?外部の理由でもって、自分のしたい事が決まるのでは無く、外部には無関係に、自分の中から出てくるもの。そして、それを可能に、あるいはより近づけるにはどうしたら良いのか、と考えた方が良いのではないでしょうか?その為には、自分の本心を知る必要がある。例え、クルーが居るにしても、シングルが本心であるなら、シングルを考える方が良い。後は、何とかなるもんです。

つまり、外部環境から、自分のしたい事を絞っていくのでは無く、まずは自分の本音ありき。そこから出発する。それを知るのは、自分が何を感じているか?それを頭脳は意識するだけ、私は今こういう事を感じていると意識する。心の奥底で感じる事が本音ではないかと思います。ただ、いつもは、それを意識しないので、素通りしてしまう。自分の本音が解ったら、それに対して外部環境を整えていく。クルーが必要なら募集する。でかいキャビンが必要なら、そういうヨットを探す。最初に自分ありきではないかと思う次第です。多分?すると、本音でやる事はうまく行くのではないかと思います。できる事の外部条件を検討して、結論に達するというのが普通ですが、逆に外部条件では無く、本音で何をしたいのかを先に立てる。それから外部条件を整えるというやり方です。

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